ディノアクアリウム。
再生した恐竜や古魚を観覧することが出来る、最新の水族館である。
セーラー服を脱ぎ捨て、おめかししたアテナがそこで柏崎理香を待っている。
スカートが短い。
だがそれとは関係なく、やはり彼女は大幅に遅刻して現れないのだった。

携帯に入った連絡によると今向かっているらしいが、柏崎理香の言葉もあって、
結局アテナは立腹しながら先にディノアクアリウムへと入ることになる。
「なんだかなぁ…… もう!」

水中エレベーター。
エレベーターはぶくぶくと水泡を上げながら地下へと進んで行き、
透明のガラス越しに勇ましい恐竜の姿を映し出す。
そこに、その視線の先に何が見えているのか、何色が見えているのか、白か、白以外認めん、
アテナを見上げる少年の目があった。
それに気づき微笑むアテナ。少年も意味深な笑みを返した。




さらに降りて行くエレベーター。
だが、その時、世界が一変した。
少年の居たはずの場所、震える視界の先に、狂ったピエロの姿がある。
あの時と同じ、覚醒の予感。
「こんにちは、アテナ。ダンスはお好きかな?」

聞こえる。心の声が聞こえて来る。
本来聞こえてはならないはずの、人間達の心が聞こえて来る。
それは紛れもなく、他心通――テレパシー能力だった。

新たなる覚醒に呼応するが如く、エレベーターの機能が消失する。
血の巡りを失ったエレベーターを襲ったのは恐竜による突撃だった。
恐竜が踊る。恐竜の一撃はエレベーターのガラスに容易くヒビを入れた。
太古の王を見世物にするのはヒトの傲慢だったのか、巨大な力になす術のない人間達。

「来るよ。あの恐竜…… また、来る」

そして、少年が発した予言と共に行われる二撃目の突撃。
ピエロの狂った笑いがアテナの意識の中で響き渡る。
その瞬間、アテナの身体が再び強い光に包まれた。

というか、この水族館のシステム、安全性が欠陥しすぎだ。
恐竜がおとなしくなるよう再生するときにプログラムしてあるのだろうが、
それでも何かの事故でエレベーターと激突する可能性は充分にあるだろう。
こんな簡単にガラスが割れるのでは話にならない。
同じ水中でも熱湯コマーシャルの方が遥かに安全だ。
ここで、自分で誘ったにも関わらず現れない柏崎理香の陰謀説を提唱したいがどうか。

近未来は本当に恐ろしいところだ。


アテナが目覚めた新たなる能力はテレポートだった。
サイコパワーが、エレベーターが破壊され、
浸水と共に訪れた逃れようのない死から彼女を救う。
それは何かに仕組まれたように……

わけも解らずに歩を進めると、そこに見覚えのあるペンダントが転がっていた。
アテナが誕生日に渡した柏崎理香へのプレゼント。
柏崎理香もすでにこのディノアクアリウムに辿り着き、そして事故に巻き込まれている。
再び視界が揺らめき、身についたクレアヴォワイアンス――千里眼は、
柏崎理香の危険を知らせていた。

走るアテナ。その先で彼女が目にした物は、
エレベーター内でまたしても閉じ込められている柏崎理香の姿だった。
ここまでの閉じ込められる体質も珍しいが、
それ以上に私が驚愕したのが高速オートセリフ飛ばしで語られる予備電源の位置だった。
これからも重要な情報が平気でオートセリフ飛ばしで語られて行くのだろう。
もうあなたもわたしもアテナから一瞬たりとも目が離せない。

うっお―――っ!! くっあ―――っ!! 飛ばすな―――っ!


テレパシー能力でプライバシーを侵害しながら予備電源室を探して回るアテナ。
WADより派遣された救助のWARMも口では決まって大丈夫だと言うが、
実際は浸水による崩壊の危機が迫っていることがアテナには判ってしまう。
悠長に救助を待っている時間はない。一刻も早く予備電源を探さなくては……

長い髪をたなびかせて浸水間近のディノアクアリウムを走っていると、



ストーカー行為を行っている椎拳崇にバッタリと出くわした。
その罪を物語るかのように体力メーターによって顔を隠されている

そんな椎拳崇にアテナは、

「ごめん、こんなことしてる場合じゃないの。あたし、急いでるから」

との冷たいコメントを残した。

だが、この手のゲームにおいて仲間の存在は大きな力となる。
まして椎拳崇はこの世界でも中国拳法の達人だ。
力仕事はお手の物だろう。障害を龍連打でハメ殺すくらいはわけないことだろう。
ここは彼に協力して貰い、共に予備電源を探すのが得策と言える。



と、思ったのだが使えねぇな、こいつ
むしろ面倒が増えてしまった

予備電源室を求めて走る。

職員専用フロアへのロックを解除するために電源盤のパズルを解き、
ついに予備電源室への扉が開かれるかと思いきやパスワードを要求され、
テレパシーで心を読んで職員から聞き出したパスワードを入力。
そしてついに扉が開かれるかと思いきや今度はカードキーを要求され、
カードキーのある保管庫のパスワードをまた職員からテレパシーで聞き出し……



もう意味が解らん

とにかくもう色々行き過ぎたお遣いをこなし、予備電源室への扉は開かれた。
尚、読んでいる方もすでに意味が解らないだろうが、
今の段階でただ予備電源室へ行くための職員通路への扉が開かれただけで、
予備電源はまだ復旧していない。つまり、これだけやって扉一個開いただけである。

尚、椎拳崇は何かイベントがあるのかと思ったら
適当に話し掛けた職員が対処をしてくれるとの小さな会話だけで処理された

ついに開いた扉を進む。
そこで、あのエレベーターの中でアテナを見上げていた少年と再び出会った。
少年は恐竜を連れている。
だが、太古の王はその威厳を失い、息も絶え絶えだった。

作られた生命である再生恐竜。それは人工の水槽を出ては生きられぬ身体。
否、生きられぬよう敢えてプログラムされているのだ。
彼らは何のために生きているのか。
クリハラマサトと名乗った少年は、寂しげに恐竜の最期を看取った。

マサトをオプションに付け、予備電源室への道を走るアテナ。
健気に後ろを付いてくるマサトだが、接触判定を残したまま追ってくるため、
アテナが振り向くと引っかかる

前言撤回。
今作に限っては、仲間が居ない方が良い
ちなみにアテナの歩行は↑で常に前進するバイオ方式である。
狭い通路だと冗談では済まされない



進めない

パックンフラワーもビックリの障害物と化したマサトとの別れは早かった。
一般物資搬入出エリアでなぜか動いていた唯一のエレベーターに彼を乗せ、
アテナは一人予備電源を探す。だが、別れ際のマサトの言葉は確かにアテナを揺さぶった。

「超能力って、知ってる? 普通の人にはない、特殊な力……
 もしもそんな力を持っていたら、キミはそれをどう使う?」


中央動力室のモニター。
アテナがそれに目をやると、激しい水流と共に次々と映像が消えていった。
モニターが火を噴く。
その中で、唯一生きている画面には柏崎理香の姿があった。
まだ無事。だが、彼女は取り乱した様子でドアを叩き続けている。声は届かない。

そこでまた、超能力の覚醒が起こった。
柏崎理香へ声を届けたいという想いがその奇跡を起こしたのか、
覚醒した新たなるサイコパワー、リペアは、壊れたはずのモニターを一瞬で修復していた。
だが、やっと届いた言葉も今は気休めにしかならない。

「アテナっ! 早くーっ!!」

そして、さらに走るアテナがやっと予備電源を回復した時、
ピエロのふざけた笑いが耳を突き刺した。

「お疲れさま、アテナ」

ほんとにな

アテナの力が見たいと言うピエロ。
彼はサイコパワーの塊のような球体を撃ち出す。サイコボールか。
同時に、アテナにあの、本をバラバラにした時のように、
オートでサイコシールドが発動。無意味に終わる。
それでも笑うピエロはさらにアテナの力を揺さぶった。

「なんとかしないとお前、死んじゃうよ」

再び放たれたサイコボールをサイコシールドで弾く。
生命の危機にアテナが発した超能力は新たな、最初の攻撃的なサイコパワー――
ショックウェーブだった。

倒れるピエロ。それでも狂った笑いは止まない。
むしろ歓喜に包まれた哄笑を上げ、ピエロはサイコボールを予備電源へと放った。
破壊される予備電源。苦労して苦労して入れた予備電源をピエロが破壊する。
それはプレイヤーの底知れぬ怒りと共に、底知れぬ怒りと共に
緊急排水装置ももう動かないという絶望を意味していた。

ディノアクアリウムはもう数分と持たない。
その後に残るのはただ観光に来ただけの、何の罪もない人々の死体だけだ。
唯一残った微かな希望は、この場に居るアテナの、手動による緊急排水装置の起動のみ。

コントロールルームのある第二職員通路への扉を開くべく、
アテナのサイコメトリーが唸りを上げる。
引き出しでメトリーし、引き出しの鍵を捕獲。中の住所録をメトリーし、パスワードも捕獲。
サイコメトラーアテナと化したアテナは鬼神の如く安部さんや田中さんのプライバシーをメトり、
ついにコントロールルームへと辿り着いた。

残された時間は後3分。
アテナは迅速に点火銃を打ち込み、緊急排水を成功させる。
館内を圧迫していた水が逃げて行く。これで危機は去った。

――かに見えた。
だが、アテナの遠い視界、クレアヴォワイアンスは柏崎理香に迫っている恐竜を感知する。
ピエロの手によりリミッターを外され、凶暴化している今の恐竜はヒトを喰らう。
今、彼女を救えるサイコパワーは何か?



サイコパワー入力画面。
心電図のように動くラインが変色している部分の上に重なると同時に
表示されたボタンをリズムよく全部押して行く。

ひとつ、またひとつとアテナはボタンを押し込み、これが普通にシビアで、
捕食ムービーが流れ、柏崎理香はそのまま喰われて死んだ。

つまり、失敗


DEAD END



今度は恐竜の体内に監禁された柏崎理香を救い出すミッションかとも思ったのだが、
これは普通にゲームオーバーになったようなので少し前からやり直しを強いられた。
まさか本当に喰われ、しかも専用ムービーまで用意されているとは思ってもみなかった。
リアルタイムレビューの罠に嵌められてしまったと見て良いだろう。

しかし、覚悟を決めての再挑戦でも柏崎理香は捕食され、
またの挑戦においても柏崎理香は捕食された。
これで恐竜に朝、昼、晩と三食プレゼントしてしまったことになる。
視覚と一瞬のブレがあるようで妙に難しい。少し早めに押すのがコツのようだが……


このまま夜食も与えるわけにはいかないので
ここは秘蔵の禁千弐百拾壱式・八稚女茶を飲んでサイコパワーを回復。
そしてついに入力に成功する。

発動したのはテレポートだった。
なぜか倒れ、気を失っている柏崎理香の前に光と共にアテナが出現する。
その眼前には恐竜の凶悪な歯並び。
気がつく柏崎理香だが、不可解を思う前に現実が絶望すぎた。

だがその時、再びアテナのショックウェーブが発動する。
波に飲まれ、消えて行く恐竜。
それは神秘的な光景ではなく、血肉を撒き散らしての残虐な散開だった。

辺り一面は血のプール。
柏崎理香は返り血に染まる手を恐る恐る眺め、視線を前へ向けると、
振り返った親友は、頬を、髪を、生々しい赤色で染めていた。

麻宮アテナはすでに、ヒトではない。