列車内をWARMが探索すると、倒れているポリゴンの女子高生が存在した。
それは、力を使い果たしたのか、完全に気を失っている麻宮アテナ。
「エージェントの三宮芳弘」が言っていた娘。隊長に報告するため、WARMは走り去った。


――声が聴こえる。誰かに名を呼ばれている。

アテナは真っ暗な世界に居た。
“特別育成室”
そう書かれた重々しい扉を潜る。
地下鉄に居たはずなのに、今のこの場所がどこなのかまるで解らない。
研究員に話し掛けても声が届いてはいないようだった。

威厳のある女性が人間大のフラスコを真剣に見入っている。
その女性の名は、高沖清乃。彼女をガードする男性の名は並木と言った。

「!? まさか…… 素晴らしい! 成功よ!」

高沖清乃が興奮気味にそう語る。
素体から採取したDNAの欠損部分を完全な形で修復した。
彼女はいったい何を再生させたというのか。

「これで、停滞していたあの計画を進めることができる……」

高沖清乃は満足そうにそう続けた。
資料をタンタロスに提出し、AEシリーズ、それぞれのプロトタイプを作成する。

AE-X04 「アストライオス」 AE-Sd10 「ペロプス」

興奮の収まらない高沖清乃にしかし、研究員は懐疑的だった。
こんなことを、本当にやるのか……?
恐竜を作るのとはわけが違う。
人間を作り出すなどと、人間が行って良い行為なのか?

「あんなニューロコンピュータなんかのために!」

名もない研究員の彼は、WADがタンタロスに支配されつつあることに気付いていた。
だが、高沖清乃の一声で彼に並木の銃口が向けられる。

高沖清乃の探究心はもはや野望だった。
あの時、シベリアの遺跡で発見した古代人を造り出し、超能力を持った人間を生み出す。
そしてタンタロスはその新たな人間を元にした自分の手足を欲している。

高沖清乃はタンタロスの盲信者であると研究員は感じていた。
いや、高沖清乃自身が造り出したタンタロスは、彼女の子供と言っても良い存在なのか。
目を覚ませと訴える研究員の背を、並木の銃が貫いた。

「第一研究室へ行って、誰か呼んできて。
 AEシリーズの素材に、追加があると伝えて」


高沖清乃は冷酷ささえ感じる冷静さでそう言った。
脇に倒れる死体には目もくれず、彼女はひたすらにフラスコの中身に歓喜していた。


重大な謎のキーが多数提出され、そして暴かれるというシーンなのにも関わらず、
過去最大の速度で専門用語満載の長文が勝手に飛ばされる
これを一発解読出来た人間はいるのだろうか?
プレイヤーにも超能力を要求される、ある意味マインドシーカーのようなゲームである。

私は仕方がないので録画して停止ボタンを押しながら全文を読み、
やっと意味を纏めることに成功した。
なぜこんなことをしているのかそろそろ自分に疑問を感じ始めた

「……このプロジェクトは失敗だったよ」

再び姿の見えない声が直接語り掛けて来る。
多分、このゲームも失敗だ。

この声の正体をもう少し引っ張るのかと思ったのだが、
推理力溢れるポリアテナはまたしても一発回答で当ててみせた。

「あなた……、マサトくんね」

さすがである。

マサトの声は続いた。
いや、“マサト”は仮の名前。本当の名は――ペロプス。
高沖清乃が志し、そして失敗した出来損ないの古代人の欠片。
今、アテナの見た映像はペロプスが見せている過去の映像だった。

WAD研究所、E.A.R.F――
全てはここから始まっている。

だが、タンタロスには出来損ないで充分だった。
ただ自分の能力を高める生体パーツが造れればそれで良かったのだ。

タンタロス コードネーム AL-X00Es

数十万年前の古代人の素体のDNAを使ったシミュレーション。
自己成長型のニューロコンピュータープログラム。
ただそれだけの物が、タンタロスと呼ばれる機械だった。

だが、彼は進化、増殖を始めた。
何百代もの進化、増殖。
やがてそれは自我と自己防衛本能を生み、WADの支配を始めた。

現在の1356世代目のタンタロスは今や、
WADを通して街の人間達をシステムに組み込んでいる。
人間達は何も知らない内に、コンピューターに、古代人の意思に支配されているのだ。

タンタロスに命を与える。完璧な生命体にする。
それが高沖清乃の野望だった。
そのための生きた生体ユニットがペロプスであり、アストライオスだったのだ。

高沖清乃が過ちに気付いた時にはもう全てが手遅れだった。
タンタロスは彼女の裏切りを許さない。
並木は射殺され、高沖清乃は誰も知らない場所に永遠に幽閉されている。
今現在も、尚――

だが、マサトの話は理解すれども、アテナの疑問は晴れなかった。
そう、こんな話は自分には関係のないことなのだ。
麻宮アテナは普通の高校生であり、普通の人間のはず。
三宮芳弘に、アストライオスに、タンタロスに狙われる理由――
自らに宿った超能力の意味が解らない。

その答えはマサトも導いてはくれなかった。
膝を突くマサト。彼もまた、あの恐竜と同じ存在。命を握られた人形。

「でもアテナ…… 君は僕とは違う……
 きっと、君は負けな……い……」


世界が回復した時、アテナは病院のベッドで眠っていた。
ちゅんちゅんと小鳥がさえずる中、目を覚ましたアテナの視界に入った顔は
椎拳崇と五十嵐だった。アテナに親はいないのだろうか?

心配する椎拳崇に弱々しい笑顔で答えるアテナ。
すでに半日が経過しているらしい。
気を利かせた五十嵐は看護婦を呼ぶと言って部屋を出て行った。

というか、どう考えてもショックウェーブを3発も浴びた五十嵐の方が重症のはずなのだが、
なぜ彼は無傷でアテナの見舞いに現れているのだろうか?
看護婦を呼びに行くのではなくお前が入院しなさいと老婆心が働くが、
五十嵐は無敵キャラなのだろうか?
タンタロスはむしろアテナよりも五十嵐をマークするべきである。

柏崎理香を心配し、勢い良く起き上がるアテナ。
接近するアテナの顔と薄い患者服からはだけたポリゴンの胸元に、
今度は目に見えて真っ赤になる椎拳崇。



非常にブサイクである。

尚、柏崎理香は軽い怪我だけで済み、すでに退院したらしい。

だがよくよく考えてみると、この地下鉄のエピソードで
柏崎理香が何か怪我をするようなことがあったか?
ただ列車に乗ったまま切り離されただけだったはずなのだが……
むしろ入院すべきはショックウェーブを3発も浴びた五十嵐だと思うのだが、強い
五十嵐は強い

そこに空気を読まず、まだ教師然とした三宮芳弘が無表情に現れた。
マサトの言葉により、アテナはすでに三宮芳弘の正体を知っている。

「明日は学校に出られるか?」

三宮芳弘は事務的な言葉だけを述べて、病室から出て行った。

Disk2 終了。