日本人のカードゲームはカルタか花札だろ!!

第一声から言わせて頂いたが、そう考える日本人、むしろ武家の方もおられるのではなかろうか。
マジック・ザ何とか? 知らん知らん。遊☆戯☆王? まぁカイザー海馬は渋くてカッコいいよね。
その程度の認識。かくいう僕もそうだった。
だが、このゲームをプレイしてその認識は変わった。

カーファイ>>>花札>>>カルタ

厳密に言えば、

現ナマの賭かった花札>>>カーファイ>>>花札>>>カルタ

こういった伝統的な札遊びでない、最新鋭のカードゲームに触れたのは
借り物だったこともあってもう記憶から薄れているネオポケのカーファイ1、
それから後は、プロ野球チップス……? ああ、アレは別にゲームじゃないか。
とにかくその程度の知識しかなかった僕には軽いカルチャーショックですらあった。
そりゃあこのジャンルも流行しますよ、と理解させられた気持ちだ。

しかも今作はSNK(ADK)キャラとCAPCOMキャラがカードとして採用されており、
単純にカードゲームとしてだけではなく、キャラゲーとしてもこれ以上ない高揚感を煽ってくれる。
好きなキャラが出るまでカードを集める過程が面白くて仕方がない。
そしてそのキャラをデッキに組み込み、ここぞとばかりに相手へ襲い掛かる。
カードのイラストが秀逸なこともあって感情移入に容易い。
小学生向けをターゲットにしていると思われる今作だが、
むしろ大人でも小学生に戻った気分で「喰らえ!」と言いながら草薙京を出したり、
「異議あり!!」と言いながらナルホドくんを出したり、
ヒイキのカードが倒された際には「レアカードに傷がついたわ!」と叫びながら楽しめるというものだ。

コンボの光景を想像してみるのも面白い。
例えば産出フォース●●●のタムタムを複数出してフォースを稼ぎ、
ジャンヌの“高飛車”で全体攻撃力を上げ、アスラの“神を裏切る者”で全体攻撃し、
レラの“分離攻撃”で硬直を解いてもう一度タムタムから1ループ、
これにアクションカードの“秘書のお仕事”も交えてずっと俺のターン!
最終的には攻撃力の上がった各キャラで一気に攻めるとする。
これはつまりタムタムが奇声と共にひたすら排卵する中、
ジャンヌが狂ったように笑い、アスラが淡々と全体攻撃で敵を駆除し、
最終的にはバーサーカーと化したタムタムの一群が奇声と共に襲い掛かるということだ。
先のSVCよりよほどカオスな映像だろう。

確かにインターフェースが悪いしレスポンスもレイアウトも最低限のレベルで、
ちょっと触っただけでおよそ“一流”でないことが解ってしまうゲームである。
だが、好きなキャラカードを集め、デッキに組み込んでコンボを考え、
あまつさえその光景を想像して楽しめる。どうだ! こんなに面白いゲームはない!

――そうやってホクホクと楽しんでいた所、不吉な話を耳にした。
何でも、わざわざコンボを考えたり、コストを溜めてテリーやリュウ等、レアカードを出さなくても、
低コストで攻撃力の高いワイラーやタン・フー・ルー、
レオナらをひたすら並べて速攻をかける方が強いというのだ。
そんなバカな。そこまでは強くないだろう。
僕は信じなかった。今までのやり方で本当に面白かったのだから。

でも試しにちょっとやってみた所…… 強いってレベルじゃねぇぞ!
詰んでる! 少なくともHP2000のCPUは詰んでるよぉう!
なんとターンを重ねてフォースを溜め、いざ! とばかりにレアカードやコンボを繰り出すより、
さっさとワイラーを並べた方が明らかに強いのである。
何というワイラーゲー…… これではワイラーvsワイラーである。
対戦ならばHPが3000あり、対速攻用のカードもあるので対処も可能なのかも知れないが、
少なくともCPUはそれで2、3ターンキルが可能だ。それも簡単に。

正直、カードゲームとしての出来は良くないのだと思う。
淡々と頭の悪いCPUをハメ続けるのはあまりに作業的で苦痛ですらある。
が、しかしこのハメを使わずに今まで通り普通にプレイすると…… 面白い!
やはり抜群に面白いのである。
つまり、ハメを自粛して楽しめば最高に面白いゲームなのだ!

ん? 何だ、コレ。この既視感。ある程度、自粛すれば最高?
ああ、そうか。
これよく考えたら(SNKの)格ゲーと同じじゃないか

背筋の凍るストーリーモード

一応、MAXというコンピューターに制圧されたカードタワーで、
洗脳されてしまったカードファイター達と闘いながらタワーを登るというストーリーが存在し、
公式サイトでもオリジナルキャラクター達を細かい設定と共に大きく紹介、
予約特典の小雑誌にはキャラクター相関図なども載っているこのゲームだが、
それらは一切、意味のないことである。

それはあくまでこのゲームはSNKとCAPCOMのキャラクターカードがメインであり、
オリジナルキャラクターなどには誰も興味がないから、というのも確かに理由ではあろう。
しかし、その実態は少し違う。ストーリーモードが何かオカシイのだ。

ザコがうわ言を言う

タイキ「コイツも洗脳されちまってるようだな。しょうがねぇ! カードバトルだ!」

カードバトル

タイキ「目が覚めたみたいだな。もう大丈夫だぜ!」

ザコ「ありがとう。何かプレゼントを……」

タイキ「礼なんていいって! カードファイター同士じゃねぇかよ」

ザコ「じゃあカードバトルの相手ならいつでも」


このテンプレートに沿った会話がザコの数だけ100回ほどひたすら繰り返されるのである。
これがすべてコピペの使い回しならただの手抜きと断じることもできようが、それが違う。
同じテンプレなのにあって同じ会話はただのひとつもない。
同じテンプレで、ザコの顔も色違いの使い回しばかりだというのに、同じ会話はひとつもないのだ。

少し解り難いだろうか?
正直、僕にもどう説明していいのか解らないのだが、
「しょうがねぇ! カードバトルだ!」が「カードバトルで何とかするしかない!」だったり等、
まったく同じ会話内容なのにも関わらず、
セリフがそれぞれ微妙に100通りほどほんのり違うのである。
これはもう、逆にスゴいと言わざるを得ない。
同じテンプレを使って細部の違う会話を100個作りなさいという恐ろしい拷問のようだ。
これを書いた人間の方がよほど何かに洗脳されているのではないのか?
そう思わせるに充分である。

そんな会話を延々聞きながらタワーを登っていく内に頭がオカシくなる。
確かに面白くない。同じ会話(でも微妙に違う)を何度も何度も見せられて面白いはずがない。
面白くないし、そもそもこんな物はストーリーモードとは呼べない。
だが、何なのだろうか、この世界は。
メルヘン……? そうだ、メルヘンの世界に迷い込んだ気分になる。

単に子供向けに分かり易い展開を繰り返したのでは?
とも思ったのだが、その割に小学校では習わないような漢字もしばしば目に飛び込んで来る。
何とも狂った不思議の国のアリス。まるっきり狂気の世界である。
洗脳…… そう、このストーリーモードのテーマが“洗脳”であるならば、
これほど効果的で、そして恐ろしいストーリーも他には存在しないだろう。
機械意思に統一された世界とはこんなにも寒々しく、背筋の凍るものなのだ。



■特別書き下ろし小説 カードファイター タイキ!!

 勝敗は決した。
「会心の勝利だぜ!」
 勝ち誇った顔で見下ろす少年の手にはワイラーのカードが四枚、
それにタン・フー・ルー、東風、レオナが複数枚、それぞれ場を支配している。
 今年で47才にもなるジーロが少年、タイキに敗れたのはもはや明白だった。
「な、なぜであ〜る!? なぜこの私が小学生などに……」
「お前はただカード“で”闘っていたにすぎない。だが俺は常に、カード“と”共に闘っている!」
 膝を突くジーロの顔へ、タイキの拳がストレートに直撃した。
「い、痛い……」
 何が起こったのか解らないといった様子のジーロは、血を噴き流す鼻を押さえ、ただそれだけを呻いた。
「ああ、心が痛いだろうさ…… それがお前に虐げられてきたカード達の痛みだ!」
「い、いや、心より…… 殴られた顔が…… ほ、骨が折れているであ〜る!」
「カードで言って分からない奴には拳で分からせる…… みんなやっていることだ」
 タイキはそれだけ言い残すとジーロに背を向け、次のエレベーターへ向かおうとしている。
 すでにカードタワーは20F。
タワーを支配し、カードファイター達を洗脳したMAXの待つ最上階へ、タイキは進む。

 カードタワーの最上階は機械に包まれ、その印象は乾燥的と言えた。
 床には光の線がエネルギーラインのように流れている。
その線を追った先に、宿敵MAXの姿があった。MAXはただモニターに映るだけの“モノ”だった。
 無機質な物体が、耳障りな電子音と共に語り掛けてくる。
「よくココまでキましたね。まさかカード四天王がタオされるとはオモいませんでしたよ。
 ですがワタシはカレら不完全なニンゲンとはチガう。
 さぁタイキ、データにのみ支配された、ワタシの完璧なカードバトルをアナタにお見せシマショウ!」
 タイキは無言で、カードを繰る、人間の右腕を振り抜いた。
電子音が一層鳴り響き、MAXの全身から火花が飛ぶ。
 タイキの拳はMAXのモニターに突き刺さり、すでに腕と呼べる部分までをめり込ませていた。
 失われたMAXの“顔”が驚愕を表現しようとする。
「ナ、ナゼ!?」
「哀れだな、MAX…… いくら人間を洗脳したところで、お前は人間にはなれないんだ!」
「ワ、ワタシがニンゲンに!? ナゼですか!?」
「カードで言って分からない奴には拳で分からせるしかない…… みんなやっていることだ」
「ナ、ナニを!? ワタシはまだアナタとカードバトルもしてイナイ!
 それにホントウにミンナやっていることナノですか!?」
 タイキは動じることなく、拳を引き抜く。そして静かに言った。
「俺は機械とカードはしない…… 勝てるわけがないからな」
「ソ、ソンな……! このワタシがガガガガガガガ……」
 すでにモニターに走るものは邪悪な意思ではなく、不快なノイズのみ。
拳で弾けるMAXの火花は、まるでタイキの力を演出しているかのようだった。
 その背へと唐突に、ひとつの気配が生まれる。
「さすがだよ、タイキ。まさか機械にまでパンチを出すとはね」
 タイキは弾かれるようにして振り返った。聞き覚えのある声。
「まさか…… お前がこの事件の黒幕なのか! カイト!」
 カイトと呼ばれた少年は笑いを押し隠すかのように俯き、背を震わせていた。
「そう、その通りだよ。キミとカードバトルをしてパンチを出された僕の復讐の舞台。
 それがこのカードタワーだったのさ!」
「何をバカなことを…… やはりお前とはもう一度、決着をつける必要がありそうだぜ」
「決着だって? あの勝負は僕が勝っていた! キミのパンチは僕が勝った瞬間に飛んで来たんだ!」
「駄目だ…… 自分の実力に溺れ…… 完全に洗脳されている。しょうがねぇ、カードバトルだ!」
「いや、それはできないよ、タイキ」
 なぜだ!? と問おうとしたタイキだったが、その前にフロアの異変に気づいた。
MAXが放っていた火花は増し、今は地震のようにタワー全体が唸っている。
「どういうことだ!? まさか、自爆!?」
「違う。これは僕も誤算だったのさ。MAXが異常をきたすと、このタワーは崩れ落ちる。
 まさかキミが機械にまでパンチを出すとは僕も思わなかった」
「ちくしょう! 早く逃げねぇと!」
 タワーが崩壊する前にと、タイキは駆け出そうとする。しかし、カイトは逃げる様子を見せない。
「どうした!? このままだとお前も死ぬぞ!」
「だろうね」
「なら早く逃げねぇと!」
「それは無理だよ」
「どうして!? もう諦めたのかよ!?」
「キミに殴られたときに椅子から落ちてね…… 足の骨が……」
「カ、カイト……!」
「全治三週間なんだ」
 言って自嘲気味に笑うカイトには不思議な落ち着きがあった。しかしそれは、死を覚悟した者の落ち着き。
「バカ野郎、カイト! 俺と決着をつけるんじゃなかったのかよ!」
「もういいのさ…… それにカードでの決着ならとうについてる……
 僕の楽勝だった…… 2ターンで……」
 コンクリートの砂を落とす天井が、激しくなる。
「カイトォォォォォォ!!」
 手を伸ばし、絶叫するタイキの向こうで、巨大な灰色の塊がカイトの姿を消した。
 瞳を閉じ、残骸に背を向け、タイキは駆け出した。
カードファイターとして生まれついたがための悲劇を振り払うかのように。
「カイト、お前は確かに強かった…… カードバトルではお前の勝ちだ……
 だがお前は俺の……」
 強敵の生きた証をを心に刻む。拭った涙を握り締めた。
「俺のパンチの強さに負けたのさ……」
 タイキは走り続ける。それはタワーを抜けた後も変わらない。
 闘い、敗れていったライバル達の魂と共に、タイキはカードファイターの道を走り続けることを誓った。





ないなら付けようという変化

このゲームを作業的に感じてしまう要因ははっきりとしている。
ザコを倒してもカードを貰えないからだ。
ザコを倒す度に一枚でもいいからカードを貰えればそのカードをデッキに組み込み、
また新しい気持ちで次のザコを駆除しに赴けそうなものだが、それがない。

一応、微々たるお金を貰えるので貯まる度に店でカードを買えば、
間接的に“ザコを倒してカードを貰う”という設計にはなるのだと思う。
しかし、ザコから奪えるお金はあまりにも少なく、
しかもこのインターフェースの悪さの中、いちいち店に戻るのは結局苦痛なのだ。
だからつまり、基本、ザコを倒してもまた同じデッキで次のザコへ進むことになり、
何の変化もなく淡々と作業を行うことになってしまう。
次のザコと戦うモチベーションを持てない。

ならば、自主的に変化を付けようじゃないか! という提案。
このゲームはデッキをたくさんセーブできるので、
例えば赤黄青緑とフォースの色ごとに四つのデッキを作り、戦う度にデッキを変えて挑む。
最善のデッキを作る楽しみが失われるかも知れないが、キャラゲーとしては抜群に楽しい。
基本、フォースの色分けがあるために好みのキャラだけでデッキを組むのが難しいこのゲームだ。
だがこのようにデッキを作れば赤ならミナいろは、黄ならテリー、ロック、京、春麗、ナコルル、
青ならリュウ、ギース、アテナ、緑なら庵、K'、アッシュと様々使い分けられる。
結果として好きなキャラを全員使えることにもなろう。毎回、新鮮な気持ちでザコと戦える。

作業戦法を自粛し、変化のなさを自分で調整し、そして遊べばあら不思議。
最高に面白いゲームになってしまったではないか。
そこまでして遊ぶゲームなのか? と問われれば、僕は遊ぶゲームです、と答えよう。
それがSNKvs.CAPCOM カードファイターズDSである。
(もちろん、キャラが好きという前提でね)