無双シリーズ! それは、画面から溢れてはみ出して来んばかりの兵の群れを、
一騎当千の強者がバッタバッタとなぎ倒す爽快無比の大ヒットアクションゲームである!

ならば、北斗の拳をモチーフに、モヒカンどもを駆逐する無双アクションを夢見るは北斗の民の必定!
たった一人で数千の兵を前に怯えず、走らず、まるで無人の野を行くが如く戦った北斗の漢!
あの勇姿をこの手で再現出来る日が来るのならば、もはや我らに一片の悔いもなし!
その願い届くのならば、この身体、粉塵に砕け散っても本望!

すなわち北斗無双とは、あらゆる北斗の民の夢を乗せ、北斗ゲーの中で唯一巨額を投じられた大作!
最強無比の北斗ゲーなのだ!
北斗無双こそ我らの心を震わせる光! そして我らを導く父!
今、北斗クソゲー伝説に、終止符が打たれる……!

北斗と無双は全てにおいて五分と五分!

今作は、厳密には北斗ゲーとは言えないかも知れぬ。
北斗無双とはすなわち、北斗の拳をゲーム化しただけの作品ではなく、
あくまで“北斗の拳”と“無双シリーズ”のコラボレーション作品なのだ。

故に北斗無双における“北斗”と“無双”は全てにおいて互角のタイトル。
かつて、かの諸葛亮孔明にビームを撃たせ、一世を風靡した無双シリーズである。
この北斗無双でも荒唐無稽な演出こそが最大の武器!
分身! 空中浮遊! そしてブラックホール!
ジャギなどはショットガンの他にバズーカを背負い、奥義においては核までも発射する!
そういう奥義じゃねぇから! と言いたくなる物が多数だが、これこそが無双テイストなのである。
決して他の北斗ゲーのように安易に技の解釈を間違ったわけではないのだ。多分。

そもそも各キャラクターの衣装からして完全オリジナルであり、
今までの北斗の拳にはない、今風の無双らしいデザイン、演出を目指そうという意図が見える。
主題歌も「愛をとりもどせ!!」ではなく、谷村奈南の楽曲となっている。

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愛を帯びるなど無双ブランドには恥辱!

しかし、それにしても今作にはKOEIの北斗愛が見えぬ。聞こえぬ。
まず不評を買うのが、如何にも解せぬ声優陣の全交代であろう。
この北斗無双には、千葉繁の異常なナレーションに始まり、
神谷明が怪鳥音を叫び続け、内海賢二が地鳴りのような雄叫びを上げる
お馴染みの北斗の世界はどこにもない。
ただの一人もアニメ版から続投することなく、全てが新規キャストとなっているのだ。

かの国民的ロボットアニメは一部の声優が代わっただけで大問題に発展し、
かの国民的聖闘士アニメは署名活動までも行われたと伝え聞くが、
北斗の拳に至っては「新・北斗の拳」「真救世主伝説 北斗の拳」に続いて三度目の全交代である。
「北斗の拳 ラオウ外伝 天の覇王」も入れれば四度目か、細かい作品を含めればそれ以上か。
そろそろ北斗の民が関東一円に集い、改造バイクに跨ってデモ行進を始めても何ら不思議ではない。



版権問題による大人の事情もあるのだろうが、北斗の民が温厚な性情を持ち、
羊の民である内に何とか方針を軟化して頂きたいものだ。

しかも声優が違うだけでなく、セリフの選択にも一切の常識が通用しなかった。
北斗の拳と言えばケンシロウの怪鳥音やモヒカンの断末魔等、
とにかくやかましいのが特徴だったはずなのだが、今作は全体的に物静かだ。
どういうわけか、あのケンシロウがほとんど「あたあ!」と叫ばないのである。
攻撃ボタンを押してももっぱら無言か、「はっ!」「ふん!」「でやっ!」が大半。極稀に「あたあ!」である。

原作でケンシロウが「はっ!」と言いながら人なり壁なりを殴ったのは僅か三回、
ふん!」は七回(内二回は記憶喪失時)、「でやっ!」に至ってはただの一度もない
何故ケンシロウに「あたあ!」と言わせないのか一片の理解も不能。

さらに今作は、かつてない北斗ゲーの大作であるにも関わらず、
使用可能なキャラクターがたったの八人しかいない。
登場キャラクターも本当に公式サイトで紹介されている人数だけで、
デビルリバース等、カットされたエピソードのキャラクターは勿論存在しないし、
ヒューイ、シュレン、リハクは当然、マダラやライガ、フウガ、ミスミ、マミヤの村の長老、木人形狩り隊等々、
本来、脇を固めるべきサブキャラクター達も一切いない。
唯一例外として後述の幻闘編にでかいババァが登場するだけだ。

では世が世なら万の軍勢を縦横に操る天才軍師、海のリハクが演じる、



の名シーン等はどうなっているのかと言えば、普通の五車兵のおっさんが代役として飛び掛かる。
ライガ、フウガもただの汎用ザコ指揮官になっているし、
南斗義勇軍の指揮官が使い回しのモヒカンだったりと、全編通してそんな感じだ。
魅力的な脇キャラ達の姿を見ることは出来ない。
余計なモデリングは一切行わぬのがKOEIの流儀らしい。

モデリングだけでなく、余計なモーションも一切用意しないようで、
非プレイヤーキャラクターのユダ、シュウ、リュウガ、ジュウザは全員コンパチである。
フドウに至ってはザコとコンパチである。
各キャラに1、2個オリジナルのモーションがあるかないか、と言った具合である。
ちなみに彼らはシュウ以外、声優もザコと二役である。

そもそも今作のプロデューサーからして、CEROの問題で悩んだ際、
北斗の拳はバイオレンスシーンが売りなのではなく、むしろバイオレンスはギャグとして描いてある、
残虐表現を重視する必要はないと原哲夫御大に言われ、驚いたと度々発言しているところからして、
全くと言って良いほど北斗の拳の魅力を理解していないと思える。

そんなものだから、折角のHDクオリティの美麗ムービーシーンも、
当然、ムービー化されて然るべきシーンのカットなどは日常茶飯事だ。
「力こそが正義!」もないし、「てめぇらの血は何色だー!」もないし、「うわらば!」もない。
よしんばムービーがあってもなぜか重要なセリフがカットされていたりで、
ことごとく北斗ファンのツボを外してくれる。
システム上、マミヤでも二指真空把が使えてしまうのも問題だ。

北斗無双は北斗ゲー史上、空前規模の大作。それは間違いない。
だが、北斗世界の再現としては期待に反して劣等。
北斗無双の北斗愛がもっと強大であれば、北斗の民も歪まずに済んだものを……

伝説編と幻闘編は二極一対、陰と陽!

この北斗無双には、伝説編と幻闘編という二つのメインモードが存在する。



まず原作ストーリーを追体験する伝説編だが、こちらはジャンルがアクションアドベンチャーとなり、
迷宮要素やトラップ、パズル要素、隠し通路探索、ジャンプアクションといったプレイを強いられる。
無双の醍醐味である一騎当千を味わう前に、余計なアドベンチャー要素に道を阻まれるのである。
頑張って色々とギミックを作ったのだろうが、プレイヤーが北斗無双に期待しているのは一騎当千なので、
爽快感よりもむしろ面倒臭さの方が先に立ってしまう。
しかもシナリオ上、ボス戦は一対一での闘いが基本であり、やはり一騎当千は味わえない。
内容も一対一の場合、血をすする勢いでハメ殺すだけのゲームとなるので実に面白くない。

そして何よりこの伝説編、視点移動が悪いのにジャンプしたり、
カメラを動かしてスイッチを探さねばならぬため、物凄く酔うのである。
一切の弁明のきかぬ3D酔い地獄である。
3D酔いの激しい漢はすぐさまプレイを中断し、薬の街、メディスンシティーへ向かうが良かろう。

対して、幻闘編は他の無双シリーズの流れを汲む、一騎当千のタクティカルアクションである。
北斗無双オリジナルストーリーに乗せ、無数のモヒカンどもを殴り倒すアクションは爽快無比!
余計なアドベンチャー要素もないので酔う心配もなく、存分に暴れることが出来る。
これが無双! 地上最強の殲滅アクションゲーム!
キャラクターの育成も面白く、無意識無想にプレイし続けた時間たるや百から先は覚えていない。
やはり“北斗”と“無双”のコラボはオレの想像を遥かに超えて強大。ハマるに余り有る大作であった。

もっさりゲーなど知らぬ! 通じぬ!!

今作はよくもっさりゲーと揶揄される。
それは、一見してケンシロウの拳が大振りで遅く、硬直は恐ろしく長く、
スロー過ぎて欠伸が出るレベルだからである。
その硬直の長さは圧倒的で、ひとたびコンボをガードされるや、
どこで止めようが膨大な硬直時間を伴なうため、もはや反撃は確定。死を待つのみとなる。

しかもザコのコンボまでも恐ろしくモーションがスローであり、
ケンシロウなど比ではないレベルであまりにもスロー過ぎる見たこともない動きなのだが、
それが何故か四発程度きっちりと連続ヒットしてしまうため、
ボーっとダメージを受けている時間が長い。あまりにも長い。
拳を打ち出すも地獄、拳を浴びるも地獄である。
例えもっさりゲーと忌み嫌われようと、オレには言葉が見つからぬ。

しかし、それはあくまで成長していない初期段階での話である。
実は今作は、成長し、「紫電飛び」「疾風の体技」といったスキルを身に付けることで、
それぞれジャンプ、固有体術でほぼ全ての硬直をキャンセル出来るのである。
殴っている最中でもガードされていればキャンセルして逃げられるし、
モヒカンを殴り飛ばした後の硬直もキャンセルして次の相手へ向き直ることが出来る。
ちょっとこんなに何でもキャンセル出来て良いのか? と心配になるほどキャンセルすることが出来る。

さすがに殴られている最中は固有体術、ジャンプは出せないが、
実は奥義、もしくは闘気覚醒で喰らいモーションをいつでもキャンセル可能なのである。
故に常に保険として最低1ゲージは残しておき、相手の拳を浴びるや即座に奥義発動!
というのがこの北斗無双での基本となる。

もう一つ、今作のテンポを阻害している要素に中ボスの体力の多さとガードの硬さ、
異様に硬く、割れても高速で回復するスーパーアーマー、
ましてや触れるだけでダメージを受けてしまうトゲ付き鎧男の存在がある。
何故北斗南斗の超人達がトゲに触るだけでダメージを受けるのかは判らないが、
これらに囲まれた日には名のある拳士との対戦以上の脅威。奴らの前では悪魔でさえ童子。
どんな達人でもなかなか超人的に砕くことが出来ぬので、無駄に長期戦となってしまう。

そこで登場するのが真・伝承奥義である。
これは闘気覚醒後にのみ出せる強大無比の大技で、
これを受けると中ボスと言えども所詮はモヒカンに毛の生えたようなデザインの下衆共、
体力ゲージに関係なく、確実に即死するのである。
真・伝承奥義で多数の中ボスを巻き込んで倒す快感たるや、今作最大の醍醐味と言えよう。
そして、プレイにおけるテンポも圧倒的に改善されることになる。

となればすでに、もっさり? 陳腐な! そんな言葉はもはや無い!
キビキビ動く北斗南斗の漢達他で北斗無双を堪能するが良かろう。
とにかく「紫電飛び」を身に付けるのだ。

貴様らが飢えてもKOEIは飢えぬ!

北斗ゲー史上、未曾有の完成度を誇る北斗無双だが、気を付けねばならぬことが一つある。
それは、DLCことダウンロードコンテンツが異様に高いことだ!

今作ではケンシロウ達の衣装は全てオリジナルアレンジが施されてあることは先に触れたが、
何と、KOEIは何の変哲もない原作準拠コスチュームをDLCで、一着300円で売っている。
プレイヤーキャラ八人分を揃えようものなら2400円もかかってしまうのだ。
たかがコスチュームのデータで2400円である。恐ろしい。
地獄じゃ! なぜ神は弱者には自由を与えてくれぬのか!

ならば、追加キャラクターとして発表されている
ハート様とモヒカンの値段が気になるところだが、これがまた800円もする。
専用のストーリーが搭載され、幻闘編が楽しめるのならまだ理解も出来るのだが、そんな物は無い
豚一匹に800円である。「いてえよ〜!!」って、こっちの懐の方がいてぇよ!

オ、オレは忘れていた…… あの事を……
KOEI”はまたの名を“光栄”! SFC時代にスーパー三國志IIを14800円で売っていた男……

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この薄さで上下巻に分け、3570円も取る攻略本も酷い。