第一章 暗黒の北斗 動く!
暗黒の北斗起つ!

という雄々しいキャッチから始まるサターン版北斗の拳の世界だが、
まず初めにプレイヤーが理解しておかねばならないのは1996年、サターンのゲームなのにあって
このゲームがパスワードコンティニューであるという点だ。



ジャケットにも潔くそう記載されている。

北斗の拳5 天魔流星伝 哀★絶章でもプレイ終了時にSFCであるのに
『リセットボタンを押しながら電源を切ってください』
とファミコンのようなメッセージが出て来たが、ここでさらに退化している
サターンになってさらに退化している

本当にこれはバンプレストが作ったのだろうか?
本当は東映動画が作ったのではないだろうか?

そんな予感を抱かせる展開だが、
このゲーム、ただ何の意味もなくパスワードというわけではなく、
そこに一風変わった演出が施されている。




パスワードが秘孔になっているのである。

当然、一文字打つ度に「あたっ!」
間違えるとこのモヒカンから「この野郎! ふざけやがって!」と怒られる。
ふざけてるのはお前だ。秘孔を突け! ではない

もはやこのネタのためだけに敢えて本体標準備え付けのバックアップを使わず、
わざわざパスワードにしたとしか思えない。アホかッ


さて、それではパスワード記載用のメモ帳を用意して、舞台は原作後へ。
サターン版北斗の拳の始まりである。

相変わらず荒廃している世界にハトが舞う。
荘厳な鐘の音色。今日はリンとバットの結婚式だった。
だがそこに物々しく鳴り響くバイクのエンジン音。

降り立った男は、



ジャギ様ソックリだった。

ジャギ様似の男の狙いは天帝の子、リン。
ジャギ様似の男は「暗黒の北斗」と名乗り、まさしく北斗の拳で村人を爆破した。
北斗の使い手にバット如きが敵うはずもなく、
彼は画面暗転後にはもう地に平伏し、「リィィィン!!」とお決まりの叫び声を上げていた。

報せを持って砂漠を一人の村人が歩く。
救いを求めた先で瞑想に耽る男は、かつて世紀末救世主と呼ばれた漢。
北斗神拳伝承者、ケンシロウだった。
事情を告げると同時に爆死する村人。


「北斗…… 暗黒の北斗とは……」

ケンシロウもまた、もう一つの北斗の存在を知った。

そしてケンシロウはリンの村へと移動するわけだが、
ここで本作の最大の売りである「歩くシーン」が入る。



ちょっとケンが妙にホッソリしている以外は何のことはない移動シーンだが、
別にプレイヤー直々にケンシロウを操作して移動しているわけではない。
というか、ゲームが開始してまだ一度もボタンを押す機会すらない
ただケンシロウが歩くのを眺めるのがこの移動モードだ。

その特徴は長いことが挙げられる。
とにかく長い。何故か延々とケンシロウが歩くシーンを見せられるのが今作の特徴だ。
CDは全く動いていないのでロードが入っているわけでもない。
何の意味もなく歩くシーンを、移動する度に毎回見せられるのである。
これが「歩くゲーム」の真相だ。

とりあえずまだ最初なので15秒程度の徒歩を行うケンシロウ。
すると村人が現れてケンシロウは「んんっ?」
村人と遭遇し、とりとめもない話が一方的に展開される。
そしてそれでリンの村に辿り着いたのかと思わせておいて……




また10秒ほど歩くシーンである。
そしてまた村人を発見したケンシロウは「んんっ?」
とりとめもない話を一方的に展開される。

これでついに村へと到着したのかと思いきや……




また10秒ほど歩くシーンが挿入される。
そして今度は敵を発見したケンシロウが「んんっ?」
初バトルが始まった。

このゲームの戦闘は、一応の駆け引きはあるもののその大部分を占めるのは連打である。
使いたい技を左右に揺れるゲージの目押しで選択し、後は敵よりも早く連打
それも生半可な連打では普通にザコに先を越されてしまうので、
本気の、全霊の連打を要求されるということになる。
ザコが出る度に全力の連打を敵が倒れるまで何セットも行わねばならないのである。
正直、2、3人と闘ったらもう体力的に限界

夏にやれるゲームでもない。
こんなゲームに連打力を費やすのならば
ハイパーオリンピックで記録を狙った方がよほど良いのは考えるまでもない。
ちなみに私はこのゲームを今再びプレイするために
連射パッドを(200円で)わざわざ購入したので涼しいものである。
これが生きるための知恵。人間力だ。

そしてやっとのことでザコを倒し、最初のパスワードを入手したところで
ついにバットと対面になるのかと思いきや……




また歩くシーンである

ゲームが始まってからすでに大半の時間をただ歩くシーンの見物に費やされている。
これが新ジャンル、徒歩見物アドベンチャーなのだ。いい加減にしろ!!

さてまたしても「んんっ?」とケンシロウが立ち止まり、村人の話を聞き、
長老の家を教えて貰ったところでやっとベッドに横たわるバットと対面する。
ケンの姿を見て表情を崩したバットがケンの胸に顔を埋め、事情を語った。

「(また)リンがさらわれた……!」

敵は暗黒の北斗。
「オレもこの傷が治ったら必ず行く……!」
ケンにリンを託しながら、バットは自分の力のなさを嘆いた。
そこで長老と思われるじぃさんが妙なことを口走った。

「北斗の谷にいるリュウケン様なら何か知っているかもしれん」


え?

いや、彼もうとっくに故人だから。原作後なんですよね?このゲーム。



こう、ほらガク……ってもう彼こと切れちゃってるから随分前に。
その言葉に何の疑問も感じずに北斗の谷へ向かうケンシロウ。
当然また15秒ほど歩くシーンが入り、谷の修練所へ到着する。



「暗黒の北斗とは、北斗第三の拳、北斗無明拳のことであろう」


ぶ、武論そォォォォんッッ!!

アンタ絶対監修なんかしてないだろォォ! 武論そォォォォんッッ!!
もうどうでも良いから! 北斗第三の拳とかこの際、どうでも良いから!!

製作者の人はこのゲームを作りながら最低一回は原作を読んでいることと思うのだが、
ここで疑問を感じなかったのだろうか? あるいは全く読まずに作ったのだろうか?
そして武論尊氏はコレを本当に監修したのだろうか?

リュウケンは暗黒の北斗の謎が知りたければ北斗無明の像に触れよと情報をくれる。
実際のところ、暗黒の北斗以上に謎が広がっているのだが……
それに無言のまま従い、ケンシロウは再び歩くシーンを長々と見せ付けるのであった。



あまりに長いので測ったところ、今回、実に35秒

途中でザコを倒し、再びの歩くシーンを挟んでケンシロウは北斗無明の像と対峙する。
像は泰聖殿にあった女人像のコピペだった。
像の額からビームが放たれ、ケンシロウの脳に記憶が映し出される。

『北斗に第三の拳あり! その名は北斗無明拳! 北斗無明拳こそ、地上最強の拳なり!』

女人の姿をした像から千葉繁の声で語り紡がれる北斗無明拳の物語。
遡ること千数百年前、北斗史上最大の継承者争いがあった。
長兄ゲンカイと、次男ゼシン。
十数回に及ぶ闘いはいずれも決着がつかず、
しかし時の伝承者はゼシンの激し過ぎる性情を嫌い、継承者をゲンカイに選んだ。

だがゼシンはその決定を認めず、拳を捨てる掟を破って野に下り、北斗無明拳を生み出した。
以来、北斗無明拳は歴史の暗黒の中で呪われた光なき拳として、延々と受け継がれて来た。

『北斗無明拳は滅びず! 千数百年の屈辱を忘れず!』

野望と怨念の炎を燃やし、(何故か今更)この世の制圧に乗り出した。
暗黒の北斗を知ったケンシロウは、再び闘いの荒野へ身を投げ出す。

そこに、



ジードならぬ、無明拳突撃隊長ジーザ様が現れた。
さらい役がジャギのコピペでジードのコピペが突撃隊長。
壮大な暗黒の歴史を垣間見たばかりだが、部下はどうも格が低い

ジーザを(連射パッドで)こともなげに倒し、リンの居所を吐かせるケンシロウ。
「秘孔 新一を突いた。
 お前は自分の意思と無関係に喋り出す……」
そして“デスブラッド牢獄”という物騒な単語を喋らされたジーザ様は、
「ごべりばぁ!」とこの世を去った。

悪党にかける情けはない。ケンシロウは再び32秒ほど歩き出した。



牢獄に辿り着き、ザコと相まみえて再び21秒歩き、またザコを倒して20秒ほど歩き、
さすがは牢獄、果てしない徒歩地獄に精神的にやつれたところでリンをさらった張本人、
ジャギ様似の男、ジャドと対面した。


「ふっふっふっ、来たか、ケンシロウ」

貫禄タップリのジャド様。
しかしさしものジャド様でも連射パッドの揺ぎ無き威には成す術もなく、
嫌がらせのように岩山両斬波の連発を喰らって敗退した。

「さすがだな、ケンシロウ!」

ジャギ様と違って潔いジャド様。
その潔さはさらに続き、秘孔を突かれるまでもなくリンの居場所、
そして無明拳の目的をペラペラと語り明かしてくれた。

リンはすでに西に連れ去られ、そして光の象徴である天帝の子は闇の無明拳とっては誅敵。
伝承者自らの手での抹殺が彼らの目的だった。

それを聞いてジャドに背を向け、西へ向かおうとするケンシロウ。
だが妙に潔いとはいえ相手はあのジャギ様のコピー、
ケンシロウの背を見るや否やメット越しの目を爛々と輝かせて飛び掛った!
「バカめ!」

だが!!



「お前はもう、死んでいる」


ひ、ひでぶぁ!!



やはり外道(のコピペ)は外道(のコピペ)らしく、無残に飛び散るのだった。
さらば、ジャド。貴様には、その醜い死に様がふさわしい。


夜――
崖の上でカッコ良いポーズを決めながら佇むケンシロウ。
そしてその胸に去来する決意。
険しい視線の先にはまだ見ぬ、北斗無明拳伝承者が聳え立っているようだった。

「リン、お前を必ず救い出す!
 暗黒の北斗、その野望も、北斗神拳伝承者の前には砕け散る!」

この漢、原作後なのにリュウに跡目を譲る気さらさら無し



第一章 完