DEATH-TINY 9
凶星きらめく


ジョーの評価があらゆる意味で一変した衝撃の前話だが、
キムはなぜサラサラと接近する木の葉を避けられなかったのか?
という疑問がどうしても消えないのは私だけではないだろう。
ジョーの技を完璧に見切るキムが木の葉などを顔面で受け止めるのは不自然だ。
手で払えば良いだけじゃないか。そう考えるのは素人考えだろうか?
先のクローンキムとの一戦もそうだが、ジョーの試合はいつも八百長の匂いがする


キムの頭に棒撃を打ち込み、テリー達の前に現れた男、それはビリーだった。
バッタリと倒れ動かなくなるキムだが、
いつものように棒が頭に刺さったりはしていないので一応、命は繋がっているのだろう。
死んだのならこの作者様は頭に刺す、というか貫通させているはずだ。
また不意打ちで倒れたキムを誰も労わろうとしないところにテリー達の割り切りと、
ボンボンキムの人望のなさが窺える。
テリー達の視線は突如現れたビリーに釘付けだ。

あれから時を経て、場所を変え再び対峙するテリーとビリー。因縁の二人。

「てめぇなんでこんなとこに……?」

「うずくんだよ
 サウスタウンでおまえにおられた鼻がいつまでも……
 おまえでなけりゃなおせねぇっていつまでもな」


「悪いな おれは医者じゃねぇ
 そいつはできねぇ相談ってもんだ」


この二人が出て来ると相変わらずシャレた会話が発生する。
掛け値なしにカッコ良いワンシーンだ。

しかし当然、再会を喜び合う間柄ではない両者なものの、
それを差し引いてもテリーが不自然に激しくブチキレていた

なんかもう、もの凄いシワ寄せてメンチきっとる

読者置いてけぼり感の漂うこの唐突なテリーメンチ事件だが、
ここでビリーが察してテリーのメンチに至る道程を解説してくれた。

つまりテリーはビリーがクラウザーと組んでいることを知らないため、
アンディへの唯一の手がかりであった(そうテリーが思っていた)キムに
勝手にトドメを刺されたのが気に入らず、メンチを切るに至ったということらしい。
ちなみに怒因に「正々堂々と闘ったキムに不意打ちを行うとは〜」といった要素は無い

よくよく考えればビリーの言う通りなのだが、
なぜ私がテリーのブチキレに唐突感を感じてしまったのか脳考察してみると、
キム死んでないじゃん?
死んでないんだから別に後で聞けるじゃん。

そういう認識が念頭にあったからのようだ。
というか、キムは死んだのか?


微妙に怒りの焦点がすれ違いながら、
アンディの居場所を聞き出すためビリーと闘うことになった一行。
今度はジョーの待ったも入らない。正真正銘、テリーの出番だ。

「アンディの居場所 てめえ倒して聞かせてもらう」

駆ける! いきなりのテリーのラッシュ!
ありとあらゆる打撃をことごとくビリーに浴びせ、最後は大きく蹴り飛ばした!

しかし憮然とした表情のテリー。
膝を着くビリーにテリーが発した言葉は……

「てめぇ…… なめとんのか?」

怖い。完全にチンピラだ
またも不可解なテリーブチギレの理由は、今度はビリーが手を抜いていたからだった。
ビリーはわざと攻撃を受けていたのである。

「クック…… ハンデだよ」

先程キムが叫んでいた「パンデ!」ではない、ハンデだ。
ゆらりと起き上がるビリーに異様な殺気が纏わりつく……

「おれはな 地獄を見たぜぇ……
 おまえにやられて地位も組織もうしない」

「プライドもズタズタにされてなぁ……」

((((;゜Д°)))ガタガタガタガタ
気圧されるようなテリーのメンチとは逆方向の、体の芯から冷え上がるようなゾッとする殺気。
例によって流血しすぎの顔面も相まって背筋が凍るほど怖い。
なんとも怖い顔の多い回だ。

「おまえにわかるか?
 血ヘドをはいて汗と涙にまみれて ボロボロになってねけだす苦しさが……
 けど おかげでおれは――――」


負けることで強くなることもある。ビリーの信念は変わらない。
ちなみに「ねけだす」も原文そのまま、何も変わってはいない。

ただ変わったのは、血ヘドを吐いて手に入れた、強さ。
ビリーは言った。
「強くなりすぎちまったよ」


「てめぇ……

「おもいあがるんじゃね―――っ!!」

ボンボンテリーにそう言われるとやや釈然としない部分があるが、三度怒り爆発のテリー。
殴る! 殴る! 殴る!

しかし……

「き きいてねぇ!?」

効かない。
まともに入っているのに、あんなにダラダラと血を流しているのに、
アクセル・ホークをワンパンで沈めたテリーのパンチが全く効いていない(らしい)
鋼霊身か?

焦りの色を浮かべさらに闇雲に打撃を浴びせるテリー。
いつもと逆だ。
いつもはテリーが一方的に浴びせられ、
しかし何だかんだと理由を付けて実は効いていないテリーが大逆転。
これがパターンだったはずだ。

完全に逆。

「怖いか?」
ふいにビリーはそう口を開いた。
止まるテリー。
「おれが怖いかって聞いてんだよォ……」

もはやテリーに(元からないと言えばないが)冷静な思考はなかった。
叫びながら自慢のプロレスシューズで繰り出した蹴りは残像を残すように華麗に躱され、
そしてついに動いたビリーの裏拳がハードヒット。
一発で、しかも棍さえ使われずにテリーはのされてしまった。

テリーは恐怖していたのかも知れない。
だが意地を張り通す気骨を、テリーは持っていた。
容赦のないビリーの攻撃。
「うぎゃっ うぎゃっ うぎゃーっ」
いつも以上に鮮血が舞い、辺りには血の水溜りが何個も生まれる。
身体を真っ赤に染めうずくまるテリーに、ビリーは初めて棍を構えた。
ビリーが棍を回転させるだけでテリーは悲鳴と言ってもいい叫びを上げていた。
「うあ うああ うわああーっ!!


三節棍中段打ちーっ!!!



――――……


トレードマークの帽子は彼方へ。
テリーはいつかのジョーのように大の字に倒れ、そして起き上がることはなかった。

鼻のうずきが消えた。
ビリーはそう言って目を閉じ、空を見上げた。
これで一勝一敗。決着をつける勇気があるならドイツへ来い。
その言葉をジョー達に残し、ビリーは去る。
彼らは何も言えず立ちすくむしかなかった。


テリーが、負けた。