DEATH-TINY 14
仮面の獣王

ドイツ、眩しい日差しが照りつける中、チン・シンザンが頭を抱えていた。
そこに「どうした シンザン」と現れるビリー。
おまえしゃんの力など借りんとそっぽを向くチンだったが、ビリーには全てお見通しだった。
テリーが復活し、ここドイツへと向かっているのである。

しかし焦りの色を隠せないチンとは違い、余裕たっぷりのビリーには策があった。

「安心しろ ドイツと言っても広い
 やつらがここをさぐりあてるまでにはまだ時間はたっぷりある
 怖けりゃ先手をうって刺客をはなてばよかろう」


そう、ビリーはテリー達にただ「ドイツへ来い」と言っただけで、
ドイツの何処へとは指定していないのだ。
これでは城に辿り着くまでまだまだ時間がかかると張本人のビリーは言う。

まさしくその通りなのだが、しかしテリー達が以前に「韓国でキムに会え」との、
アクセルのたったこれだけの言葉あっさり目的地に着いていたことを
我々は見逃してはならないだろう。

ならば一刻も早く刺客を放たねばならないわけだが、
チンにはもう、テリー達に対抗できる部下がいなかった。
そこでビリーが何事か考えて手を打ってやろうというのである。

ビリーは心当たりのある、ある男をテリー達へぶつける考えを示した。

「やつは強い
 キムやブラッドなどより確実に……な!」

そして、戦車よりも強いのだろう。
一体何者が……?


場面移って、ドイツのあるレストラン。
そこではテリーが腹が減ってしかたがねぇぜ! と言わんばかりに飯を食っていた。
「やっぱドイツはソーセージとビールだわねぇ」と、得意のおねぇ言葉も飛び出し、まさに絶好調だ。
テーブルには皿が十枚以上重なっている。テリーは、ひたすら飯を食っていた。

料金はムエタイチャンプの懐から出るのだろう。
ジョーはテリーの暴食に一言注意を行うと、シリアスな顔で、
「手がかりはドイツというだけで他にない」
とビリーも指摘していた当面の問題を語った。

遡れば、ジョーはダックからの「韓国へとぶ」という手紙だけで
キムの道場をピンポイントであっさり発見していたわけだが、あの時はどうしたのだろうか?
なぜ今回に限って具体的な場所の不鮮明さが足枷になっているのだろうか?

テリーはこれからの展望として、一言「待つ」と言った。
待っていれば、こちらの動きを気にしているクラウザー達は必ず仕掛けて来る。
そこを逆に捕まえて本拠地を吐かせれば良いというのがテリーの考えのようだ。
受動的だがなかなか良い案だとは思うのだが、
なぜ今回に限って具体的な場所の不鮮明さが足枷になっているのだろうか?
狼の嗅覚は素人には窺い知れない境地である。

ところでもうすでにドイツへと到着しているわけだが、ローレンスはどうなったのだろうか?
あの後、何のフォローもないが、あの爆発を見るに明らかに死んでいる
ギースはお約束で実は死んでおらず(3で復活)、アクセルも自害だったために
意外にもこれがテリーの初殺人である可能性が高い。

うっかりすでにハロウィンやギース親衛隊を殺っていた可能性もあるが、
まぁ別に今更ボンボン餓狼で人死にが出たところで何も珍しいことではないので
それはそれで良いだろう。死人のひとりやふたり普通である。
これが犬となると、もう何匹死んだのか見当も付かない。


ならばここで飯を食っているよりも、人通りのない、
自分達を襲い易い場所へ移ろうというジョーの提案に従い、
闇の中に整列された木と電灯が立ち並ぶ、
住宅街の少し離れかと思われる場所を闊歩するテリー達。
かなり綺麗なところでカップルの一組や二組いてもおかしくなさそうだが、なぜか人通りは皆無だ。

すると早速、テリーのやたら紐の多いシューズがピクリと動いた。
獲物はあっさりとかかったのである。
テリーが挑発するようにガラの悪い声を浴びせると、
木が出てきた時点で予想されたことだが、木の陰から黒い影が現れた。



その姿にまずジョーが大きな反応を示し、そしてダックが絶叫した。

「ああーっ あいつはーっ!?」


ライデン!!

彼らが驚くのも無理はなかった。
どう考えても、木に隠れられるサイズではない
というか、よく見ると、
立派にはみ出ている


ライデンとの面識のないテリーに、ジョーが説明する。

「そうだ…… おれと闘い…… そしてアンディに海へたたき落とされた男だ」

そして、ジョーを車で轢こうとしたり、銃で撃ち殺そうとした男でもある。
ジョーがその姿に動揺とも取れる反応を示し、
やや悪意に満ちた紹介をしてしまうのも無理はないと言えるだろう。
格闘大会に出ただけのはずなのにあんな目に遭ってはトラウマになるのも無理はない。

そういえば、1でアンディは銃弾を余裕で躱していた。
1のアンディで猟銃を躱せるのなら、今のテリーならマシンガンでも全て躱し切ったかもしれない。
ローレンスが戦車を持って来た選択は正しかったのだろうか。
その戦車が敗れた今となってはどうでも良い考察ではあるのだが。

ダックはお前までもクラウザーの一派になったのかと
ライデンに聞いた。
ギース一味からテリー一味へと寝返っている彼に
とやかく言われるのが心外だったのか、返事は即答でNO。
そしてまだ木の陰に居る
もうそろそろ半歩でも良いから前に出ても良いと思うのだが、これは素人考えだろうか?
どうも彼は以前と違い、内にこもる性格になってしまっている気がする。

「おれはもうだれのしたにもつかん そのためにここへ来た」
「ゲヘ!」が口癖だった以前とは違い、先ほどからとても男前だ。


ボンボン餓狼1より
というか、顔自体違う。人種が違う。
中の人が別人になったのだろうか……?

ライデンを縛っていたのはギース・ハワードという名。
そのギースが倒れた今、彼を縛る者は今やビリーのみ。
ライデンを送り込んだのはビリーだった。
ビリーはテリーを殺せばもう束縛せず、自由の身にしてやると約束していたのである。

原作ではビリーとライデンは一応対等、内部に入り込んでいるのはもちろんビリーなものの、
殺し屋としては対等の格だったと思われるが、ボンボンでは歴然たる差があるようだ。
強さも、権力も。
何しろボンボンビリーは異常に強いのだ。

しかし、ということはライデンはビリーの居場所を知っていることになる。
ライデンがクラウザー一味ではなくても充分手がかりになると踏んだテリーは、
「手を出すなよおまえら 一対一だ」と、
再び記憶復活後のパワーアップぶりを見せつける方針を固めた。
因縁のジョーは早くも指定席の感すらあるギャラリーの位置へそそくさと後退した

「気をつけろテリー
 やつは史上最悪と言われたレスラーだ
 まともな技できやしねえぞーっ!!」

テリーも似たようなものなので、その点は大丈夫だ。

しかし、いくらキムやローレンスより強いとのビリーのアナウンスがあったとはいえ、
旧ジョーに敗れた程度のライデンが本当に今の羽根テリーと闘えるのだろうか?

じわじわと間合いを計りながら軸移動するテリーとライデン。
そして先に動いたのはライデンだった。
ライデンは「う おーっ!!」と雄叫びを上げ、テリーに突進。それに反応して拳を出すテリー!
が、ライデンは拳の横をすり抜け、横からテリーの腰をがっちりとキャッチ、
そしてそのままスープレックスで地面に叩き付けた!!

「サ サイドスープレックス!」
と、汗をたくさんかきながら大袈裟に叫ぶジョー。

さらにヨロヨロと立ち上がろうとするテリーの脇へ現れたライデンは、
そのままテリーを抱え上げ、バックブリーカーを浴びせた!!

「うわわ こ…… こんどは
 ワンハンドバックブリーカーだと〜っ!?」

お次は背中を押さえ呻くテリーの首を捉え!

「が……ふ これ……は
 
スリーパーホールド!」

「うわあ いかん
 その技は頚動脈を圧迫する!
 あのままではしめおとされてしまうぞーっ!!」


――――――

プロレス技の連続に盛り上がりを見せる解説陣。
特にダックは、ボクシングにおけるグローブの意味すら知らなかったはずなのだが、
プロレスには妙に詳しいようだ。
さすがは空中殺法の使い手といったところだろうか。

頚動脈を圧迫されながらも肘打ち(パワーエルボー!?)でスリーパーから脱出するテリー。
ダックの忠告とは違い、ライデンは正統技しか使って来ていない。

「お おれはもう反則はやらん」

ライデンは語る。

「あの時…… アンディに海へ落とされ目がさめた
 あの男は銃をかまえるおれに臆することなく正統技で勝利した
 おかげで真の強さは反則などでは得られないと悟ったよ」


逃げ出したライデンを「逃がすか―――っ!!」と背後から飛翔拳で打ち抜き、
海へ叩き落としたのが正統技と言えるのかどうかは微妙な問題だが、
ライデンはこの出来事により文字通り頭が冷えたらしい。

「だからおれはもう一度でなおす 悪役レスラーライデンではなく!」



極悪非道のライデンではなく、正統派レスラー、ビッグベアとしてリングへ!
そう宣言し、ライデンはライデンというレスラーの象徴であったマスクを脱ぎ捨て、素顔を晒した。
この瞬間から彼はビッグベアとなったのである。
なんとしてでも今一度、自由の身となり、正統派レスラーとしてリングへ上る。
その決意の表れが男前ルックの正体だったのだ。

だが、この感動の展開に「けっ!」と悪態を付いて気に入らない素振りを見せるテリー。
テリーに引っかかったのは、そのためにビリーの命令を聞いているという点だ。
その道を歩むためにはビリーが怖いってか、ベアを追い詰めるテリー。
そしてベアはあっさりと「そうだ」と答えていた。

ビリーの粘着ぶりはギース以上。
例え身を隠したとしても蛇のようにしつこく追って、再び自分を悪の道へと連れ込むだろう。
自分にはテリーを倒す他、道はない。

かつてはギースに仕え、同時に恐れていたとはいえ、
敗者を棒で刺し殺す役目はビリー・カーンその人だったのだ。
ベアはギースの部下時代からビリーを恐怖の対象として見ていたのだろう。
同僚の頭に棒が刺さる姿を何度も見て来たとしたら、それは当然かも知れない。
犬はもっと殺されているのだろう。

しかしこのコマを見る限りベアではくタン大人として生まれ変われば
逃げおおせるかも知れないと私は思ったのだが、これは素人考えだろうか?

だが、テリーはそんなのは認めない。
「だめだね それじゃあてめえは百年たっても勇者にゃなれねぇ」

自分(てめえ)をしばる恐怖(くさり)はよ
 飼い主にほどいてもらうんじゃねえんだよ
 本当の自由を手にしたけりゃあ

 
自分(てめえ)の手でひきちぎるもんだーっ!!

説教と共に妙に紐のたくさん付着したシューズでハイキックを放つテリー!
テリーの説教で動揺があったのか、それをモロに頭に喰らうベア!
が、これがプロレスラーのタフネスというものなのか、
ベアはそのままテリーの足を取り背面に投げつけた!!


「うああっ
 くらったケリをつかんで
 そのままうしろに投げたーっ!!」


そろそろウザいな、こいつ……


確かにテリーの言葉は正しい。理解も出来る。
自分の闘うべき相手はテリーではなく、ビリーなのかも知れない。
しかしベアにそれは、それだけは出来なかった。
「それをやったらおれは自由とひきかえにこの世にいない……」
弱気なセリフだがこのシーンではテリーにアッパーカットを浴びせている

悪役レスラーから、正統派へ。
ベアの思いは強いが、それ以上にビリーに対する恐怖心が強いようだ。
ギースの殺し屋時代によほどの残虐シーンを見せられていたのだろう。
というか、今作の1のライデンは“悪役”ではなく、単純に“悪党”だったのだが、
この過去を役ということで抹消しようとする姿勢はいかがなものか

さらに「ラリアットドロップ!」「ジャイアントボム!!」「エルボースタンプ!!」と猛ラッシュを浴びせ、
テリーをKO寸前にまで追い込むベア。なぜか強い。

1から2の間に成長したのはテリー達だけではなかったようだ。
復活テリーをここまで痛めつけている時点ですでに光線剣のローレンスよりは強い。
ビリーの言葉を信じれば、本当にあのキムよりも……?

まぁテリーは餓狼1ラストのギース戦でパワーアップした直後に
2のプロローグにてホア・ジャイ互角の死闘を演じていたので、
あまり信用出来ないと言ってしまえばそれまでではあるが、
羽根となったテリーも組まれてしまっては意味がないのだろう。相性も悪いようだ。
というか、羽根の設定が早くも消えた感がある。

「お……ぶ…… レ…… レスラーってのは強いとはきいてた……
 が 中でもてめえはピカ一だろ……?」
焦点の定まらない目でプロレスリスペクトを語るテリー。
よほど潜在意識に刷り込まれていると見える。
命の次に大切なプロレスシューズもリスペクトの証だ。
一体誰から聞いていたのかは知らないが、
ボンボン餓狼の登場人物は皆プロレスが大好きのようだ。
三沢最強。ノアだけはガチ。

「な…… なさけねえ野郎だ……
 それだけの強さをもちながら飼い主におびえきってやがる…… とは……
 そ…… そんなこっちゃたとえおれを殺れて……も
 
てめえの首輪は一生とれ……ねえ……

血みどろとなり、ハァハァ息を切らせながら尚も説教を行うテリー。
言葉がいちいち胸に刺さるベアはどうしても逆上せざるを得なかった。

「だ……だまれ だまれ だまれーっ!!


!? あっ ああーっ



大きなリアクション! で、出るか! ベア必殺のベアハッグ!!


うっおおーっ


ネックハングーッ!!




ネックハングだった。

……なぜただのD投げを大袈裟に。


しかし首を絞められ宙吊りにされてはいたが、テリーの拳はがら空きだった。
対して、腕で締め上げているために全くガードができないベア。
悲しいかな、プロレスマニアの作者はプロレス技の弱点までも忠実に再現してしまっていた。

「見せてやるよ おれとおまえのちがいを!!」
そう宣言されて放たれたテリーのショートパンチは的確にアゴを打ち抜き、
尚且つ、ベアの巨体を今度は逆に宙に浮かせた!


「おれは野にはなたれた狼だ
 飼い犬(てめえ)の牙(わざ)と」

誇り(おもさ)がちがう!!


ドゴォッ!!


やはりテリー、強し。
漢字をわけのわからないふりがなで読ませながら拳と同時に説教まで浴びせる
ベアは善戦はしたものの、結局ワンパンで沈んだのであった。

おいこら ここで引導わたされるか
 やつらの本拠地(いどころ)おしえるか
 どっちか選べ!!

テリーに凄まれ、ベアはもはや何も言えなかった。
その後のシーンは描かれていないが、
打ちのめされたままにモゴモゴとビリーの居場所を吐いたのであろう。
正統派レスラーとなるべく人生をかけた一戦だったのだが、今や心身ともにズタボロである。

絶望、放心、怯え、悔恨、様々な感情の入り混じった表情からは
心と体のバランスが崩れてしまったことが窺える。
彼はこの事件でますます内にこもる性格になってしまったかもしれない。
肉体のダメージ以上に心のケアが必要だろう。それだけテリーの説教は重く、キツイ

以後、ボンボン餓狼にはベアのベの字も出て来ないため、彼の消息は一切不明となっている。
はやまって首を吊ったりしていなければ良いが……


深夜のヴォルフガング城。
今度はチンはかなきり声を上げてビリーに怒りをぶちまけていた。
それも当然、キムやローレンスより強いという触れ込みで送られた刺客がテリーに簡単に敗れ、
しかも城の場所を吐いたのである。これならば送らないほうがマシだった。損をした気持ちだ。

しかしビリーは尚も余裕そのものと言った表情のまま、
キムやローレンスより強いと言っただけでテリーより強いとは言っていないとへ理屈でチンを弄んだ。

テリー>戦車>ベア>ジョー、キム、ローレンス>アンディ>>>>>>>>>>ダック
ビリー評ではこのくらいということなのだろうか?
ベアの評価が高すぎる気もするが…… ビリーもプロレス好きなのだろう
三沢最強。ノアだけはガチ。

ビリーが余裕なのも当然、彼は初めからベアが敗れることを見越したうえで、
テリーに城の場所を教えるつもりで彼を送ったのである。
ビリーの目的はあくまでテリーとの完全決着なのだ。

「やっとの思いでここへたどりついたテリーが
 アンディをすくうこともできず倒されたときどんな絶望の表情を見せるか
 おまえは見てみたくはないか?」

ビリーはどこまでもチンをコケにし、笑いながら去って行く。
だが、俯きながらそれを見送るチンの背には異様な闘気が収束していた。

「後悔するアルよ ビリー・カーン……」

今までのチンとは違う雰囲気。

「おまえ このわたしをちとなめすぎたアルね……」

原作設定では彼もまたタンの弟子のひとりであり、
あのジェフ・ボガード、ギース・ハワードと共に闘神三兄弟と呼ばれた男のチン・シンザン。
もちろんこのボンボン餓狼ではそんな設定は全く出て来ないが、
設定的隠れ強者であるチンがついにその牙を見せるのか……!?