DEATH-TINY 17
運命は"死"

運命の対峙、身体が動こうが動くまいが二人には関係なかった。
牙がある限り突き立てるのが狼の生き方だからだ。
二人はまだ、狼のままだった。

一触即発の状況の中、ふいに城が揺れた。
瓦礫と化して降り落ちてくる天井。何があったかと二人は驚き、上を見上げる。

すると天からは殺虫剤を浴びた害虫のように
ジョー、舞、ダックが力なく降って来た。
一様に受け身を取らず、したたかに後頭部を打ち付ける三人。
「生きて会おうテリー!」と、カッコ良く別れたジョーだったが、
再会がまさかこんな形になるとは夢にも思わなかっただろう。

三人は「うむ……」「うむむ……」「む……」と、頭からダラダラ血を流しながらも、
どこかのんきにリズムよくセリフを合わせて立ち上がった。
ちょうどナナメ後方に位置する三匹の戦力外へ首を動かし、
驚きながらも心配するように激しく名前を叫ぶテリー。

しかしビリーの視線はそちらではなく、天井――
上方を向いていた。


そこには――

「うおっ!? ク クラウザ―――ッ!!

崩れ落ちた天井を地面に、帝王は立っていた。
それはつまり結局、大切な機械部屋を自分で壊してしまったことを意味する。
いかんせんうっかりしすぎである。本当にアンディは大丈夫なのか


あれがクラウザー。初めて見る今回の敵の顔、闘気。
予想以上だとテリーは身震いした。
しかし気に入らないのはビリーだ。
この瞬間のために散々回り道をした。色々と回り道をした
これ以上、テリーとの闘いを邪魔されるのは許せない。

長身のクラウザーにギロッと視線で押さえつけられながらも、ビリーは縛を解き、
「ひっこんでやがれ〜っ!!」と棍を携えて突進した!

が、一瞬。
ビリーの胸に添えられたクラウザーの左手は時間がゆっくりと進むように静かに輝き、
そして、爆発した。
クラウザーは一言も発さない。
そしてビリーも無言のまま、何も言わず、何も言えず、
ピクピクと痙攣するだけの人の形をした、ただのモノとなった。

「に…… にげろ…… にげろテリー…… やつには」
「クラウザーには手を出すな――――っ!!」

ジョーの振り絞るような絶叫。
一度、拳を合わせたジョーには解ってしまった。
クラウザーの力が、人間を超えていることに。

闘えば、死。

ここでテリーを止めなければ死のビジョンは現実として、眼前で再現されてしまう。
「闘(や)れば殺される!!」
だがそう叫ぶ裸男の声は、親友へは届かなかった。
彼はまだ、狼だったのだから。

「おれはテリー・ボガード」

瓦礫がある。がある。ならばテリーに、負ける道理はない!

「敵にうしろは見せねぇ!」

「うあ…… だめだ……
 テリーの野生の血がより強い者との闘いを求めて火をふいちまった」


何度も訪れたテリーの修羅場を常に外野から絶叫しつつ、
屍になりつつ見守ってきた男には解ってしまっていた!

ああなったもう…… 誰にも止められない!!

そう! もう誰にも止めることは出来ないのだ!!

テリーvsクラウザー! 最終決戦!!

最初に飛び込んで行ったのはテリーだった!
アンディを貰って帰ると吠えながら放ったボディブローは
深くクラウザーの腹部へ突き刺さる。尚も止まらない。
「破オオオオ――――ッ!」
狼の雄叫びのような、パンツを装着した変態仮面のような音を上げ、
テリーのラッシュはことごとくクラウザーの肉にめり込む。
「バスタースルーッ!!」
思い出したように投げも放った。

圧倒的だった。パワーも、スピードも圧倒していた。
テリーの攻撃は休む間もなく、全てクラウザーの肉体へ確かなダメージを刻んで行く。


城が軋む度に、もはやどこに居ても石は降って来た。
下で響く激突音に急かされるように小石の雨は降り注ぐ。
時折身体の上で、雨の当たる音がする。
棺桶が光った。
そして、死んだように眠っていた、長い、金髪の青年の瞳も――


まだ終わらないテリーのラッシュ。殴る! 殴る! 殴る!
クラウザーの身体は楽器になったように、痛々しげな音を奏でる。
ここまで来るとギャラリーもノリノリだ。
あれだけ心配していた仲間達も、今や「い〜っ やっほーっ」とまでテンションを高めている。

テリーもノっている。
ギャラリーの手拍子に乗せられてフィニッシュと叫びながら繰り出した拳は
長身を下から突き上げるように、クラウザーの顔面へと接触した。
激しい打撃音。
しかしそこで初めて、クラウザーから彼の音が発せられた。


「それで…… 目いっぱいか?」

止まった。
リズムが止まり、時間もまた止まった。

「だとしたら…… なめられたものだ」

思わずたじろぐテリー。
だが下がる間もなく、クラウザーの掌はテリーの顔に触れていた。

吹き飛ぶ――

「おまえていどの実力でわがシュトロハイムに牙をむくとは思い上がりもはなはだしい
 その慢心 当主の名においていさめてやろう」


今度はクラウザーのターンだった。
一撃。一撃。
重い打撃がテリーの肉体へと圧し掛かって来る。

本気ではなかった。

「これまでのクラウザーはテリーの力量をはかるために
 まるで力を出していなかったんだ!!」


ジョーの叫びはそのまま絶望を示していた。
クラウザーの掌が今度はテリーの胸に触れる。左胸。心臓だ。
「おが…… おががぁ……」
握っている。クラウザーの手がテリーの心臓を握り締めている。
あまりにも過激なストマッククロー。
ギースのお宝技は“首絞め”だったが、クラウザーのボンボン技は“心臓絞め”のようだ。

いや握り締めるなどという生やさしいモノではない。
クラウザーはそのままテリーの心臓を“握り潰す”気だ。
直接心臓を握られているような圧迫感。テリーの呻きが悲鳴に変わった!

ぎゃああーっ!!


しかし凄惨な現実にダックが目を覆ったその瞬間――!
ドッ!
何者かのカットがクラウザーを蹴り飛ばし、テリーを地獄から救っていた!!


それは静かな、静かで懐かしい声――
「いいかげんにしろ」




 「おおっ」
「ア」 「ア」 「アンディ!?」

アンディィィ――――ッッ!!
思えば浚われたおかげでほとんど出番の無かった不遇の美形キャラ、アンディ!
失われたメインキャラがついに戦線復帰だ!!


自分が部屋で暴れたせいだろう。
やはり目覚ましにしては少々益荒男すぎたのか、アンディの機嫌はすこぶる悪かった。

「ああ おまえを…… 倒すためにな!!

そう言って片手で軽く放たれた飛翔拳の威力は、『餓狼伝説』の範疇を超えていた

グボォッ
かつてないほどの爆音と共に、衝撃はクラウザーを飲み込む!

撃つ! 撃つ! 撃つ!
もはや完全にドラゴンボールの域に入ったアンディの飛翔拳は
周囲にすら被害が出る危険な兵器だった!!
尚も撃つ! 撃つ! 撃つ!

「すげぇーっ なんてすげぇ攻め方だーっ」

今にも意地の悪いテリーをやめ、アンディ派に乗りかえようかと画策するようなダックの素直な叫び!
すげぇ! なんてすげぇ攻め方だ!! なんてジャンルを間違えた攻め方だ!!
絶え間なく爆炎に身を包まれるクラウザーからも、ついに絶叫の悲鳴が溢れ出した!

うがああ――――っ!!

「勝てる! あれならアンディはクラウザーに勝てる!!」
クラウザーとの闘いを一番危惧していたジョーまでも、勝利を確信して叫ぶ!
勝てる! アンディはクラウザーに勝てる!!

しかしその一方で、一人呆然と、不思議そうに弟の活躍を見つめるテリーがいた。
「ア……ンディ?あれは本当にアンディなのか!?」
そう、アンディにしては強すぎる。
さらにテリーは、「おれの知ってるアンディはあれほどの攻め技はもっていない」と、
「なんでアンディ如きが?」といった趣旨の発言を行った。
下手したら気弾の連発は男らしくない。
男なら拳ひとつで勝負〜とイチャモンを付け出しそうな不穏な空気だ。

なぜかアンディの戦闘力はまた眠っている間に超・パワーアップを成し遂げている。
イメトレかイメトレなのか

まだ終わらない砲台アンディの演舞。クラウザーはただ撃たれるのみ。
だが何か不吉な予感に囚われるテリーの背後から、それを証明する声が漏れ聞こえて来た。

「おわ……り……だな
 奴は…… 破滅 ……にむかって…… 闘ってい…… る」

うつ伏せのまま、いつから意識が戻っていたのかビリーは振り絞るように呻く。
彼は全ての事情を知っている。
アンディの普通ではない力の正体。これ以上やればアンディは……


死ぬ!!