「やぁ! 餓狼伝説の美形キャラ、アンディだよ!」
「もうわざわざコレ誰に説明しとりますの? ってな感じやねんけども、
わいが龍虎の拳の美形キャラ、誇り高きヤングタイガーこと
ロバート・ガルシア様や」
「…………」
「右京さんや」
「サムライスピリッツの美形キャラ、橘右京さんだね」
「八神だ」
「さて、うら若き乙女達を熱狂させるそうそうたる美形キャラである僕達が
すでに揃ってしまったわけですが、
いやぁ、餓狼伝説 バトルアーカイヴズ1は面白いなぁ!
皆さん、せっかく揃ったことだし、餓狼2で対戦プレイしましょうよ!」
「おお、良かったな、アンディ。
旧作の移植とはいえ、お前さんが使えるゲームはホンマ久しぶりやからなぁ」
「ハハハハ! いやぁ、僕、この間、気づいたんですよね。
わざわざ修行して斬影拳のキレを餓狼2レベルにまで戻すんじゃなくて、
餓狼2をやれば良いんですよ! ハハハ!
斬影拳! トェヤー! 斬影拳!」
「はははは(笑)」
「実際、山にこもって修行なんてもうバカバカしいですよ!
やってる人いないでしょう、もうそんなの!
21世紀にもなってバカみたいですよ!
いやぁ、修行しなくても餓狼2の僕は強いなぁ! 餓狼1の僕も強い」
「はははは(笑)」
「この餓狼伝説 バトルアーカイヴズ1は僕の人気も手伝ってもうバカ売れでしょうね!
傷心旅行中の社員も飛んで帰って来ますよ! 超面白い!
さぁロバートさん、NEOGEOパッド2持って! 餓狼2で対戦しますよ!
格ゲーはキャラセレ画面からもう闘いですからね!」
「はははは…… わいはNEOGEOパッド2かいな。
それはまぁええねんけど、しかしやな、アンディ、今日は対戦やなくて……」
「ここのカーソルの動かし方で
もうだいたい相手のレベルが判りますからね、僕くらいになると!
まだですか? 僕もう勝手にキャラ選んじゃいますよ!」
「あー…… ちょっと会議……」
「ででーん ででーんで ふっふー♪
アンディ ヴァッザース…… アンディ! アァァオゥ!」
(……何やウザイな……)
「…………」
「……ちょっと右京さん、八神、こっち来てんか?」
「……何だ?」
「ちょう、コレどう思います? 何ですの、このテンション、彼の」
「…………」
「確かに、いささかハメを外しているようにも見受けられるが……」
「せやろ? 何やオカシイねんな、ノリが。
何ちゅうの? アレか? プレーで言うところの、スタンドプレー?
こう、わいらのチームワークがな、一番あかんプレーやろ、実際」
「…………」
「そもそもこの美形会議っちゅうのは自称美形キャラ達が自信満々に集まりながらも、
その実、中身は何や仕事がないとかもう3年も新作に出てへんとか
その辺の愚痴ばっかっちゅうのがファンの笑いを誘うポイントですやろ?」
「そうなのか!?」
「それを、なぁ?
餓狼2餓狼2て、会議する気あるんかい! ちゅうな。
わいとしてもあんま言いたないねんけども」
「むぅ…… 確かに会議というよりは対戦会の雰囲気だな」
「どうしたんですか? ロバートさん! もう試合は始まってますよ!
いやぁ、いつ見てもアンディステージの描き込みは素晴らしいなぁ!
斬影拳! トェヤー!」
「あ、いやぁ、アンディ。
わいとしてもその、あんま言いたないねんけどもやな」
「見てくださいよ! この斬影拳のキレ! コク! そしてまろやかさ!
これはもうSNKプレイモアは今後のメイン戦略の中心に
“アンディ”を置くべきじゃないのかなぁ!?」
「ま、まぁ、それはええねんけどもやな」
「まず公式サイトの壁紙を全部アンディにして、
ユサ日記の横にアンディ日記というコンテンツを作る。
社名ロゴにもイマドキの若者にウケるよう、
アンディの道着のようなナウいファイヤーパターンを入れた方が良いね」
「…………」
「あ、どうせならもう公式サイトのアドレス自体を
アンディ.comにするというのはどうだろう? ねぇ、ロバートさん。
これできっとSNKプレイモア社の資本も数十倍に膨れ上がるに違いない。
それから月刊アルカディア誌ですが、
これも名前から語感の良い“ア”と“ディ”だけを残して誌名をいっそ“アンディ”に……」
「ウザいわ!」
「!?」
「テンション高いねん、自分! 会議とは別の部分で! 無駄に!
わいら大事な会議やからこそ時間空けて来とんねん!
全然、会議進まへんねん! 餓狼2? 誰もやりたないねん、ホンマに!
わいら貴重な時間を無駄にするわけにはいかへんねん! 命短し恋せよ乙女っちゅうねん!」
「あ、そ、それは……」
「そもそも餓狼2餓狼2言うたかてしょせんは旧作の移植やないかい!
何もお前さん、立場変わってへんよ!
新作にも出れへん分際で何がアンディ.comじゃ!
誰も踏まへんわ! そないけったいなアドレスなんぞ!」
「な! じゃあ僕からも言わせて戴きますけどね、
ロバートさんがアッシュ・クリムゾン君を呼ぶときにいつも使う、
“梅酒…… あ、梅酒ちゃうわ、アッシュ!”っていうネタ、全然面白くないですよ!
親父ギャグだ! それもひどくレベルの低い!」
「な、何やと!?」
「何ですか!」
「…………」
「俺は最初から会議に参加できないことが多いせいで知らんのだが、
この会議はいつもは時間を有効に使えるよう開会からきちんと予定を組み、
タイムスケジュール通りに進められているのか?」
「……!?」
「!?」
「…………」
「……そ、そう言えば」
「確かに最初からスムーズに会議に入ったことなぞ、な、ない……!?」
「いや、この際、言うが、俺にはどうも最近は特に、
肝心の会議すらしていないように見える」
「ガハァ!」
「血を吐いた!」
「右京さんが血ぃ吐きよったで!」
「謝れ、八神庵!」
「右京さんに謝れ!」
「そしてそれだ。
貴様等はいつも俺に謝れと言うが、
それ以前に橘右京の体調管理はどうなっているのだ?
精神的な動揺で容態が悪化するようなら負担の大きい会議に参加するべきではない」
「…………」
「少なくとも、主治医の許可を得てからにするべきだろう」
「…………」
「…………」
「そしてもう一つ言うが、貴様等は会議とは関係のない不規則発言が多く、
その度に議案の本質から逸れていってしまっている。
それではいかに崇高な思想を持った会議であっても
目に見えた結果を残すことは難しいだろう」
「……それは……」
「……まぁ、な……」
「…………」
「俺は議長というガラではないが、
プログラムを組む程度ならそう難しいことでもない。
そこで、今日は少しばかり時間があったので紙にまとめて来ることにした。
どうだ? 見えるか?」
「……あ、はい」
「……はい」
「コピーを配ろう」
「あ、はい、配ります、はい」
「…………」
美
形
会
議
概
要 |
目的 |
美形業界の発展のため、各界の美形キャラで話し合いの場を持ち、その定義を明確にすると共に今後の同業界をより良い方向へ導くことを目的とする。 |
会場 |
公民館 NEOGEO会議室 |
参加 |
アンディ・ボガード(餓狼伝説) ロバート・ガルシア(龍虎の拳)
橘右京(サムライスピリッツ) 八神庵(THE KING OF FIGHTERS) |
参加の前に |
体調面での心配がある場合は事前にかかり付けの医師に相談し、許可を得ることを推奨する。
参加に当たって内服薬等の準備を必要とする場合は各自で必要物を用意し、万全の態勢を整えること。 |
会議プログラム |
14:30〜 |
準備 |
各自、開会の30分前には到着し、椅子、長机等を用意する。
口頭発表の際に用いる場合、ホワイトボードやプロジェクターの準備も行っておく。
また、参加者に体調不良の者が出た場合を考え、タンカや簡易ベッドも用意しておく。
尚、食料の持ち込みは不可(ゴミが出るため)だが、椅子の持ち込みは可とする。 |
15:00〜 |
開会の挨拶 |
アンディ・ボガードの挨拶。
「やぁ! 餓狼伝説の美形キャラ、アンディだよ!」という挨拶は当会議でのシンボル的なものとなっており、開会行事の一環とする。 |
15:10〜 |
前回の復習 |
前回の会議でまとまった定義、及び今後の方向性を確認する。
その際、不明瞭な点があれば今回に持ち越しとし、改めて議題とする。 |
15:40〜 |
動議 |
入館前までに各自で用意した議題を提出し、重要性に照らしてより目的に沿う物から議論の場に上げる。 |
16:00〜 |
口頭発表 |
議題の提議者が具体的な概要、必要ならばその研究成果を発表する。 |
16:30〜 |
質疑 |
発表に対し、聴者に疑問点があれば指摘し、質問の形式を取る。
発表者は質問者の立場を念頭に置き、明確に応じること。 |
17:00〜 |
討論 |
議題の意図を各自が明確に理解した段階で意見交換に入る。
結論が出た場合は次の議題へ移行し、提議者が口頭発表を行う。 |
19:00〜 |
休憩 |
外部で夕食を取る等、一時的に会場を離れても良い。 |
19:45〜 |
討論 |
再開とする。 |
22:00〜 |
議決 |
今回の会議で得られた意思決定をまとめる。
結論の出ない議題は延会とし、次回に持ち越す際に円滑な進行を妨げぬよう、意見を慎重に整理することとする。 |
22:20〜 |
閉会の挨拶 |
議長の挨拶と共に閉会とする。 |
22:30〜 |
散会 |
出した物や持ち込んだ物を片付け、簡単な掃除を行う。
終わり次第、解散。その際、家に帰るまでが美形会議とする。 |

「…………」
「…………」
「…………」
「こんなところでどうだ?
いつも遅れる俺が言うのも何だが、時間が押している。
俺のプログラムに沿うならば早い所、前回の復習に入りたいと思うのだが」
「……あ、はい、前回ですか」
「前回っちゅうてもジョン・フーンやらいう輩が来て、
それからアテナちゃんのピンキーが守護像でチーズがアイコラでやな……」
「……あー…… それから……」
「あー……」
「…………」
「……会議、してないですね」
「……してへんな」
「なるほど、そんなことだろうとは思っていたが」
「……どうも、すみません」
「……すみません」
「では、復習は切り上げて議題の提出に入ろう。
貴様等、何か議論の場に上げたい事柄はあるか?」
「……いや、わいは別に……」
「……ええ、僕もこれといって特には…… ええ…… ありません」
「……ありません」
「そうか、では俺が用意して来た議題を発表させて貰おう。
まず、美形業界が斜陽を迎えているという点については、
これまでの会議内容や、当会議の成り立ちを考えるに当たって、
すでに共通の認識となっていることと思うのだが、
そこで以前にアンディ・ボガードが議案として述べたアーケード業界、
特に、ビデオゲーム産業はもう回復の見込めないレベルにまで状態が悪化しており、
差し当たって、俺達は仕事の場をコンシューマーに移すべきではないか?
という考えだが、俺はここに疑問を感じる」
「……はぁ」
「先日、大々的な広報と共に発売されたコンシューマーオリジナル作品である、
KOF MAXIMUM IMPACT 2だが、この作品は俺の調べでは前作をかなり下回る、
6万本ほどの出荷に留まり、売り上げの見込みを予想外に下回ってしまった。
この時点で、アンディ・ボガードの議案は否定されたことになる。
これは格闘ゲーム業界の縮小とも考えられるが、果たしてそうだろうか?
ここで具体名を挙げることは避けるが、同時期に発売された某社の大作ゲームソフト、
これが発売後のユーザーの反応が極めて良いにも関わらず、
やはり売り上げは伸びていない。ここから導かれる答えはひとつだ。
つまり、現状の美形業界の伸び悩みは
確かに格闘ゲーム業界の斜陽とも考えられるが、もっと大きな視点、PlayStation2、
ひいてはゲーム産業自体の市場の縮小とは考えられないだろうか?」
「……ですね」
「……あぁ」
「……はぁ」
「そこで、今日はどうすればゲーム業界の縮小を食い止めることが出来るのか、
俺達、美形キャラに出来ることは何があるのか? という点ついて討論を行いたい。
貴様等、何か質問や意見のようなものはあるか?」
「……えっと、その……」
「……頑張るしか、なぁ?」
「……え、ええ、ですね」
「……うむ」
「なるほど、自分に出来ることを出来る範囲で頑張るというのも、
それもひとつの考え方としては正解だろう。
確かに、俺はいささか視野を広げすぎていたのかも知れんな。
しょせん、美形キャラ一人の力など小さなものだ」
「……せやから、ですね。まぁ、そこは…… なぁ?」
「……え、ええ、みんなで力を合わせて、というか」
「……うむ」
「そうだな、俺は事を急ぎすぎていたのかも知れん。
ここは話が大きいからこそ段階を踏むべきなのだろうな。
具体案については、今は保留とするか」
「……保留、やな。そうそう、わいもそう思うとったんですわ」
「……え、ええ、僕も、美形キャラひとりひとりの力は、何でしょうね。
保留というか。ええ、同じです」
「……うむ」
「そうか、他に議題がない以上、少し早いがプログラムの上では閉会だな。
アンディ・ボガード、閉会の挨拶は貴様にやって貰おう」
「……あ、はい。えー、閉会」
「よし、長机を片付けるとするか」
「……あ、僕がやります、すみません」
「ん? すまんな。だがそういうわけにもいかんだろう」
「いやいや、八神はもう、な。
人気キャラで疲れとるやろさかい、帰ってゆっくりせなな」
「……うむ」
「そうか、実はKOFXIのエンディングでまた暴走庵になったことで腰の具合がな……
すまんが貴様等の言葉に甘えさせて貰おう。
また次に会議があるときは遠慮なく呼んでくれ」
「あ、はい」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
「じゃあな」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「ウフフフ…… ボンジュール♪ 美形会議のみなさん。コマンタレブー?
暑い日々が続くけど、UV対策はきちんとしてるかな?
ボク、実はけっこうソバカスでき易いタイプなんだよね♪」
「……あ、はぁ」
「……あ、どうも」
「……どうも」
「あれ? 八神君がいないようだけど、まぁいいや。彼にはもう興味ないんだよね♪
ウフフ♪ ところでさ、今日のボクって気前良いと思わない?
実は最近、思わぬところで臨時収入があったんだよね♪
フフ、シェンが噛み付いたまま残してたチーズがあったから
アイドルグッズのところからオークションに出品してみたんだけどさ♪
これが300万で落札してくれるカモがいたんだよね♪(笑) もう笑っちゃうんだけど(笑)
ところでシェンってさ、筆箱のエンピツ全部噛み付いた跡があるんだよね(笑)
1ダース全部、歯形が付いててチョー汚いんだけどさ(笑)
今度、アレも出品してみよっかな♪(笑) またカモが釣れるかもね♪(笑)」
「……あ、はぁ」
「……はぁ」
「ウフフ♪ じゃ、今日はもう時間ないんだけど、また暇だったらお邪魔しちゃおっかな♪
それじゃみなさん、バイバイ♪ オ ルヴォワール♪」
「……あぁ、ほな、な」
「……はぁ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……あぁー…… 餓狼2、やりますか?」
「……あ、はい、すみません。気を遣わせてしまったようで」
「いやいや、わいもアンディ使お思うとったさかいに。
まぁ別に、そういうのは、な」
「……うむ」
「いやぁ、おもろいなぁ、餓狼2は」
「……ですねぇ」