あず画伯
弟会議 Final edition
「アンディさん…… まだッスかね?」




「ハハハ、火月君。心配しなくてもあの人はきっと来てくれるさ」




「いやでも、あちこちから引っ張りダコの人気キャラッスよ?
 何かKOFカルトクイズ in TGS2006とか呼ばれてるみてぇだし」




「それでもあの人は必ず来てくれる。
 あの人が我々を裏切ったことが一度でもあったかな?
 信じて待とう、火月君。
 それにあの人はきっと、これくらいのことで心を乱す器の小さい男は嫌いだぞ?」


「何ィ!? テメェ俺のどこが足短いってんだ! ええ!?」




「ハハハ、火月君、私は何も足のことは…… ん!?
 こ、このプレッシャー!?」




「き、来たのか!?」




「う、おおおおおおおおお!!」




「やぁ! 餓狼伝説の美形キャラ、アンディだよ!」




「来たぁぁぁ――――ッ!!」




(あ、相変わらずなんというオーラ! 風格! 品位! 格調! スケール!
 この私をしてまるで歯が立たんと認めざるを得ない!)




「待ってましたよぉぉ―――ッ!!」




「やぁ、わざわざ集まって貰って悪いね。
 すでに僕のジャーマネが通達してあると思うけど、今日は三回目の弟会議を行う。
 まずは自己紹介をしてくれたまえ」



「ぅうおおおおっしゃぁああ―――ッ!!
 一番手行くぜぇぇ―――っ! サムライスピリッツの弟キャラ!
 風間蒼月の弟、風間火月だぁぁ―――ッ!
 俺もテメェも熱くて死ぬぜえぇ─―─ッ!!」


「どうも。風雲黙示録及び風雲SUPER TAG BATTLEの弟キャラ、
 マックス・イーグルと言います。兄の名はアックス・イーグル。
 恐らく現在、真獅子」



「長いな、キミ。もうその辺で良いだろう?」




「……あ、はい」




「ん? あれ? どういうことだろう。
 まだメンバーが揃っていないようだね?」




「そうなんスよ! どこほっつき歩いてんのか楓の野郎共まだ来てねぇんスよ!」




「私も心配しているのですが……」




「やれやれ…… 彼らがここまで時間にルーズだとはね。
 限られた時間を有効に使えるかどうかが
 彼らと一流キャラとの壁だということにまだ気付いていないらしい」



「そうなんス! 気付いてないらしいんスよ!」




「彼らにも何か事情があるのでは……」




「いやいや甘いよ、早乙女君。
 会議というものはきちんとタイムスケジュールを組み、
 華麗に無駄なく、速やかに行うものなんだよ、解るかい?」



「は、はい……」




「仕方がない。先に僕が組んで来たプログラムを発表するか。
 早乙女君、コピー配ってくれたまえ」




「…………」




「早乙女君! 何をしているんだ、早く配ってくれたまえ」




「あ、はい! 私ですか? 配ります」









目的 弟業界の発展のため、各界の弟キャラで話し合いの場を持ち、その定義を明確にすると共に今後の同業界をより良い方向へ導くことを目的とする。
会場 公民館 NEOGEO会議室
参加 アンディ・ボガード 秦崇秀(餓狼伝説) 風間火月(サムライスピリッツ)
早乙女(風雲黙示録) 楓(月華の剣士)
参加の前に 体調面での心配がある場合は事前にかかり付けの医師に相談し、許可を得ることを推奨する。
参加に当たって内服薬等の準備を必要とする場合は各自で必要物を用意し、万全の態勢を整えること。
会議プログラム
14:30〜 準備 各自、開会の30分前には到着し、椅子、長机等を用意する。
口頭発表の際に用いる場合、ホワイトボードやプロジェクターの準備も行っておく。
また、参加者に体調不良の者が出た場合を考え、タンカや簡易ベッドも用意しておく。
尚、食料の持ち込みは不可(ゴミが出るため)だが、椅子の持ち込みは可とする。
15:00〜 開会の挨拶 アンディ・ボガードの挨拶。
「やぁ! 餓狼伝説の美形キャラ、アンディだよ!」という挨拶は当会議でのシンボル的なものとなっており、開会行事の一環とする。
15:10〜 前回の復習 前回の会議でまとまった定義、及び今後の方向性を確認する。
その際、不明瞭な点があれば今回に持ち越しとし、改めて議題とする。
15:40〜 動議 入館前までに各自で用意した議題を提出し、重要性に照らしてより目的に沿う物から議論の場に上げる。
16:00〜 口頭発表 議題の提議者が具体的な概要、必要ならばその研究成果を発表する。
16:30〜 質疑 発表に対し、聴者に疑問点があれば指摘し、質問の形式を取る。
発表者は質問者の立場を念頭に置き、明確に応じること。
17:00〜 討論 議題の意図を各自が明確に理解した段階で意見交換に入る。
結論が出た場合は次の議題へ移行し、提議者が口頭発表を行う。
19:00〜 休憩 外部で夕食を取る等、一時的に会場を離れても良い。
19:45〜 討論 再開とする。
22:00〜 議決 今回の会議で得られた意思決定をまとめる。
結論の出ない議題は延会とし、次回に持ち越す際に円滑な進行を妨げぬよう、意見を慎重に整理することとする。
22:20〜 閉会の挨拶 議長の挨拶と共に閉会とする。
22:30〜 散会 出した物や持ち込んだ物を片付け、簡単な掃除を行う。
終わり次第、解散。その際、家に帰るまでが弟会議とする。


「どうだい? 実に無駄のないタイムスケジュールだろう?」




「ぅうおおおおぉぉぉ――――ッ!!
 すげぇぇ―――ッ! すげぇタイムスケジュールだぜ、こいつぁぁ――――ッ!!」




「だろう? どうも君達は不規則発言が多く、
 時間を無駄にしているように常々僕は感じていたからね。
 それでは議案の本質から逸れてしまうのだよ。
 まぁ会議の基本なんだけどね」


「……あ、あの、アンディさん、
 この早乙女というのは、ニックネームのようなものなのでしょうか?」




「ん? キミはニックネームだったのかい? まぁ別にどうでもいいじゃないか。
 そんなことよりどうだい? このタイムスケジュールは?
 実に無駄のないタイムスケジュールだろう?」



「あ、は、はい」




「うーん、遅いな、楓君達。何をしているのだろうね?
 楓君が来ないことには前回の復習も出来ないじゃないか」




「ぅうおおおおぉぉぉ――――ッ!!
 楓の野郎―――ッ! 何してやがんだぁぁ――――ッ!!」




「仕方がない。とりあえず僕が用意して来た議題について進めておくか。
 まぁとりあえずだね。今まで弟キャラ達の団結を唱えて来た僕ではあるのだけれど、
 それだけじゃ駄目なんだよ、これからは」



「駄目、ですか」




「うむ、弟キャラ達は僕を除いてどうにもインパクトが弱いんだ。
 つまりだな、個々のレベルアップなくしては団結してもタカが知れてるってことだね」




「そうだぁ―――ッ!!
 タカが知れてっぞぉぉ――――ッ!!」




「なるほど、一人一人のレベルアップがあってこそ、
 団結した際によりスゴいパワーを生むことが出来る、と」




「そうなんだ、キミ達に足りないのはその意欲なんだよ。
 僕の人気や知名度、活躍に頼り切りで精進の精神が感じられない。
 それじゃ駄目なんだ。いつまでも僕の人気や知名度、活躍におんぶに抱っこじゃ」



「……確かに、偉大なリーダーを持つがばかりに、
 私達はそこに甘えていたのかも知れない」




「その通りだ。僕は突き放すときは突き放す男だからね。
 この僕でさえ、僕という存在を高めるための努力を惜しんではいないという事実を
 今日はキミ達に知って貰いたかったんだ」



「アンディさんは何やってんスか?」




「よくぞ聞いてくれた火月君。
 キミ達も国内唯一にして最大最強のアーケードゲーム専門誌、
 月刊アルカディアの存在はよく耳にしていることと思うが、
 そこから語感の良い“ア”と“ディ”だけを残して誌名をアンディ……」



「〜〜で、あの人ちょっと僻みっぽいんですよね」




「ウザってぇ」




「エリート意識かよ。ハッ 今時、流行らねぇな」




「ここだけの話、あの人、最近、KOFに出てないですよね。
 そろそろ落ち目だって聞きますよ。焦りもあるのではないでしょうか?」




「残ったのはプライドだけってか? 考えてみりゃ哀れな話だよな」




「ウザってぇが同意」





「…………」




「…………」




「…………」




「そもそもあの人が美形キャラだったのはもう十年も前の…… !?




「もうほとんど不知火舞さんのオプショ…… !?




「…………」




「…………」




「……?」




「ア、アンディ氏!?」




「ア、アンディさん!? も、もう来られていたのですか!?
 な、何故!? いつもはあんなに時間にルーズなアンディさんが
 何故、今日に限ってこんなに!?」



「……フ…… フッフッフッフッ…… こんなに、どうしたんだい?
 何か僕がいては都合の悪いことでも話していたとでも言うのかい?」




「い、いや、別に俺達は、な、なぁ!?」




「え、ええ、決してアンディさんの話ではないのです!
 私達はその、私達弟キャラとはこの業界において
 一体どういうポジションなのかというのを明確にし、問題点があれば」



カッ!




「うっ!」




「何をチンタラやっていたんだ、キミ達は!
 一体何十分のタイムロスなんだ、言ってみろ! カッ!
 さっさと餓狼3の野暮ったい顔に戻らないか!」



「そうだァ――ッ! 野暮ったい顔に戻らねぇか――ッ!!」




「は、はい、失礼しました」




「……申し訳ありませんでした」




「ハァ…… ハァ……
 まったく、これでは如何に崇高な思想を持った会議でも目に見えた…… ん?」




「…………」




「…………」




「……あ?」




カッ!




「うっ!」




「な、何で、K'君がここに来てるんだ!?
 僕が呼んだかい!? 僕が呼んだのか!? 僕がいつ呼んだんだ!
 それにK'君は楓君が闇…… どういうことなんだ、これは!」



「……いえ、それが話してみると案外、意気投合してしまいまして……
 彼は彼でその、弟業界について参考になる考えを持っているというか……」




「そ、そうなのです。確かにとっつき難い方ではありますが、
 腰を据えて話してみるとこれが意外にかわいい一面も」




カッ!




「うっ!」




「キミ達は崇高な会議の場を何だと思ってるんだ!? 冒涜かい!?
 コーヒーに混ざったミルクはもう取り出せないんだよ!
 厳しいコーヒーも甘ったるくなってしまうんだ! 解るかい!?
 キミ達がしたことはそういうことなんだ! それにどう考えても僕の方がかわいいだろう!」


「そうだぁぁ――――ッ!!
 どう考えても俺の方がかわいいだろうがぁぁぁ――――ッ!!」




「は、はい……」




「確かに、アンディさんの考えからは逸れる行いなのでしょうが、
 ここはひとつ、K'氏の考えという物も聞いてみてはどうでしょうか?
 私は是非、聞いてみたい」



「ハァ…… ハァ…… 解ったよ……
 どうせつまらない意見だろうが、言うだけ言ったら帰ると良い。
 ここはキミが来る場所じゃないんだ。解るね?」



「……野暮ってぇな」




「ん? 何だい?」




「いや、アンタの面が一番野暮ってぇんじゃねぇかと思ってよ」




カッ!




「うっ!」




「だ、だから嫌だったんだ!
 こんな礼儀も知らないチャラチャラした若造を連れて来て……
 この会議の品位に関わる!
 楓君、早く彼を連れ帰ってくれないかな!?」


「は、はい。
 その、ですが、K'さんが言うには、彼はそもそも弟枠を使ってはいないと言うのです。
 彼には確かに姉がいて、彼自身、確かに弟に当たるわけですが、
 だからといって彼には弟というイメージがないと……」


「そんなことはどうでも良いんだ!
 弟枠なんかあるか! 開発が気分で決めてるんだ、そんな物は!
 良いから早くK'君を連れ帰ってくれたまえ!」



「え、ええ!? は、はい。
 K'さん、あの、申し訳ないのですが、今日はもう……」




「ああ、邪魔したな」





「フゥ…… フゥ…… ストレスを発散するための会議で
 ストレスを溜め込んでどうするっていうんだ、まったく」




「あの、アンディさん。
 これ、この紙見てっとですね、そろそろ休憩時間じゃねッスか?
 俺、腹減っちまって、持って来た弁当食いてぇんスけど良いッスかね?」



「勝手に食べれば良いだろう、そんな物。
 何でさっき渡したばかりの紙がもうそんなにクシャクシャなんだ……?
 まぁ良い、とにかくだ。今日はキミ達にレベルアップして貰うために、
 キミ達に足りない部分を僕がアドバイスするんだ! 良いね!」


「は、はい。今日はそういう話なのですか?」




「お手柔らかにお願いします」




「うむ、では始めるとしようか。まず崇秀君!」




「は、はい」




「キミは少々打たれ弱いよね。
 僕がカッ!としても倒れないようにきちんと鍛えてくれたまえ。
 どうも妖怪とはいえ少年を虐待しているようで僕のイメージが悪くなっているようだ。
 僕がカッ!としても澄まして立っていれば良い」


「は、はい…… 妖怪なんですか、私は……」




「次に楓君、キミは覇気がないね。
 そういうのは駄目だよ。若者らしくない。
 そんなにナヨナヨして、母性本能をくすぐろうなんて思うな!



「え、え!? なぜ途中から怒声に…… アドバイスでは?」




「ぅうおおおおっしゃああぁぁ――――ッ! 次は俺だぁぁ――――ッ!!
 俺にもアドバイスよろしくお願いしやッス、アンディさん!」




「ああ、キミはその辺で弁当でも食べていれば良い」




「ぅうおおおおっしゃああぁぁ――――ッ!
 今日はひたすら飯を食うぜぇぇぇぁぁ――――ッ!!」




「ふぅ…… これで全員かな。
 とにかく、各自でポイントポイントをよく考えて、
 レベルアップに励んでくれたまえ。じゃ」



「あ、あの、アンディさん…… 私、は?」




「ん? キミは最初に言わなかったかい?」




「い、いえ、聞いておりませんが……」




「ああ、そうだっけ? 印象薄いんだよな、キミは。顔だけが濃くて。
 その、印象が薄い部分を何とかすれば良いんじゃないの?」




「あ、はい。努力します」




「じゃあ今日はそういうことで、解散!」




「お疲れ様でした」




「ぅうおおおおっしゃああぁぁ――――ッ!!
 帰ってもう一回最初から弁当食うぞぉぉぉ――――ッ!!」




「…………」




「…………」




「…………」




「…………」




「……私達に、文句を言いたかっただけでは?」




「……ですよね」