あず画伯
弟会議
「……本当に来るのか?」




「あ、はい。来ると思います。
 約束を破るような方ではないと思いますし」




「ですが、遅れているのも事実」




「てめぇらあの人が信じられねぇのか! 来るっつったら来るんだよ!」




「色々と忙しい人気キャラだからな。
 スケジュールが合わなくなったという可能性も否定できまい」




「確かに、そういう可能性がないとは言い切れませんが……」




「野郎ぉ! どの口でほざきやがる! ええ!?」




「待ちたまえ、火月君! 私とてあの方を信じていないわけではない。
 だが、まだ信じられないというのが本音としてあるのだ。
 本当にあの人が、私達と会議を行ってくれるのか?」



「餓狼伝説の準主人公キャラと言えば我々にとっては雲の上の存在ですからね。
 KOFの参加回数も抜きん出ている」




「なるほどなぁ…… 確かに俺達とあの人じゃ住む世界が違い過ぎるってのはある」




「僕も月華の剣士の主人公ですが、そういう雰囲気のある人ですよね」




「!? 待ってください! ……この気は!?」




「こ、このプレッシャー!」




「ぅうおおおおおおおおぉぉぉああああぁぁ――――っ!!
 やっぱり来てくれたぜぇぇ――――っ!!」




「来るのか!」




「!!?」




「やぁ! 餓狼伝説の美形キャラ、アンディだよ!」




「アンディさん!」




「来たぁぁぁ――――っ!!」




(こ、この人がアンディ・ボガード……
 なんというオーラ! 風格! 品位! 格調! スケール!
 この私をしてまるで歯が立たんと認めざるを得ない!)



「お久しぶりですね、アンディ・ボガードさん」




「待ってましたよぉぉ――――っ!!」




「やぁ、わざわざ集まって貰って悪いね。
 すでに僕のジャーマネが通達してあると思うけど、今日は弟会議だ。
 まずは自己紹介をしてくれたまえ」



「ぅうおおおおっしゃぁああ――――っ!!
 一番手行くぜぇぇ―――っ!! サムライスピリッツの弟キャラ!
 風間蒼月の弟、風間火月だぁぁ―――っ!!
 燃っ焼ぉぉぉぉ――――っ!!」


「あ、はい、月華の剣士の弟キャラ、楓です。兄は御名方守矢、姉は雪。
 今日はよろしくお願いします」




「餓狼伝説の弟キャラ、秦崇雷の弟、秦崇秀です」




「ん? 何だい? よく聞こえなかったよ。
 誰が餓狼伝説の弟キャラなんだい?」




「え? いえ、私のことですが」




カッ!




「うっ!」




「餓狼伝説の弟キャラと言えばまず僕だろう。
 自己紹介にしてもその辺は前置きしておくのが礼儀なんじゃないかい?
 キミも新人じゃないんだ。わきまえて貰わないと困るよ」



「は、はい……」




「どうも。風雲黙示録及び風雲SUPER TAG BATTLEの弟キャラ、
 マックス・イーグルと言います。兄の名はアックス・イーグル。
 恐らく現在、真獅子王と名乗っ」



「長いな、キミ。もうその辺で良いだろう?」




「……あ、はい」




「今日集まって貰ったのは他でもない。
 この会議は僕達弟キャラとはこの業界において
 一体どういうポジションなのかというのを明確にし、問題点があれば列挙。
 その解決に当たり、弟キャラというブランドの地位向上に努めるものである」


「ぅうおおおおぉぉぉ――――っ!!
 すげぇぇ―――っ! すげぇ会議だぜ、こいつぁぁ――――っ!!」




「頑張りましょう」




「では早速始めるが、まず提議したい問題に、
 我々弟キャラは兄に比して性能面で軽んじられているのではないか?
 というものがある。
 どうだ? 僕はややもすると兄さんより強い場合があるが、キミ達はその辺をどう考えている?
特に、限りなく兄の色違いに近い手抜きキャラの崇秀君と火月君」


「それだぁぁぁ―――っ!!
 俺はそれについて前から言いたかったんスよ!!
 アンディさん、聞いてください!!」



「ああ」




「俺はッスね! 実際のところ兄貴と首しか違わねぇんスよ!
 首挿げ替えで身体は一緒なんスよ! 通常技もほとんど一緒なんス!
 なのにですね! 何か短いんスよ! 俺の中斬りだけ短いんスよ!
 武器の長さだって見た目変わんないんスよ!?
なのに俺と兄貴じゃ全然リーチが違うんスよ! 何か俺ばっか短いんスよ!」


「それはキミの足が短いんじゃないのか?」




「踏み込みが足りないんでしょうね」




「中斬りだけじゃないんス! 大斬りも短いんスよ!
 これはもう絵からしてあからさまに俺だけ短い別技にされてんスよ!
 兄貴のしゃがみ大斬りと俺のしゃがみ大斬り比べてみてくださいよ!
 兄貴なんか薙刀使ってる奴より長いんスよ!?
それに比べて俺はリーチで測ればゼロみてぇもんなんスよ!
昇龍拳の出来損ないみてぇな技にされてんスよ!!」


「昇龍……?」




「あ、昇龍弾ッス! 昇龍弾の出来損ないみたいにされてんスよ!
 ジャンプ大斬りもそうなんス! 兄貴の攻撃範囲見てくださいよ!
 冗談みてぇに広いッスよね!?
 それで俺の場合はまた昇龍弾なんスよ! リーチ皆無なんスよ!」


「なるほど、火月君は兄に比べ足とリーチを短くされている、
 とそう感じているわけだね?」




「いや、足は一緒ッス! 下半身はほとんど同じ絵ッスから!」




「いやキミの方が短いだろう。どう見てもキミの方が短い」




「それは、イメージ的なものなのではないでしょうか……?
 風間蒼月さんはかなりの美形キャラですし」




「目の錯覚、というわけか」




「そうなのか? いや短いだろう、これは……」




「短いと言えば、私にも言いたいことがあります」




「本当はちょっとだけ短いんじゃないのか……?」




「たぶん一緒ッス!」




「あの、良いですか?」




「ああ、キミも何かあるのか」




「ええ、私の場合、通常技には目立ったリーチの違いはありませんが、
 必殺技が明らかに短いのです。
 いえ、短いのではありません。そもそも飛ばないのです。
 兄の超必殺技の帝王宿命拳はれっきとした飛び道具なのに対し、
私の宿命拳は潜在能力であるにも関わらず飛行しない。
これは明らかに差別を受けていると言えるのではないでしょうか?」


「確かにそれは非道いですね……」




「超必殺技がいつまでも漏尽拳というのもどうかと思うんですよ。
 兄さんは普通に使ってますし」




「うむ、つまり弟キャラは兄に比べリーチ面で大きな差別を受けている、と。
 確かに僕も兄さんと比べてリーチは随分と短いな。
 兄よりリーチの長いキャラはサブマリンアッパーのクラウザーくらいだろうか?」



「そのクラウザーって奴は何で呼ばなかったんです?」




「僕が必要ないと思ったからで特別な理由はない」




「ここへ呼んだらアンディさんも大きな顔出来ませんよね、大物ですし」




「……楓君。僕は本来取り立ててマナーにうるさい男ではないのだけどね。
 目上の人に対する礼儀をキミはお父さんから学ばなかったのかい?
 今の発言はキミの価値を下げる発言だよ」



「え!? すみません、そういうつもりじゃ……」




「ボスキャラとはいつの時代も優遇されるものですしね」




カッ!




「うっ!」




「ふぅ…… キミ達のマナーの悪さには本当に辟易させられるよ。
 良いかい? まず主人公がいて、ボスがいるんだ。
 僕は餓狼伝説の主人公の一人だよね?
 そして崇秀君、キミはあくまで中ボスなんだ。中ボスに過ぎない。
ボス贔屓論を唱えるにしてもいささか立場が弱いんじゃないのかい?」


「は、はい……」




「え、ええとあの、僕もリーチ短いです。兄達と比べて」




「ん? もしかしてナニかい?
 ここのメンバーは僕を除いて
 一度として兄より性能で秀でたことがないんじゃないのかい?」



「そうなんスよ! 兄貴はいっつも強キャラなんスよ!」




「僕も、どうでしょうかね……
 僕の場合、姉もいますし、覚醒すれば、というのはありますが」




「私は兄が真獅子王ですからね…… ちょっと勝てませんよ」




「兄のことは尊敬していますが、
 性能面での歴然とした差には不満がないとは言えません」




「キミの場合、餓狼伝説3からリアルバウト2に至るまで
 毎回毎回出る度に崇雷君より明らかに弱キャラだよね?
 それはもう出る意味あるのかい? 何のために出てるんだ?」



「え、あ、いえ…… 何のためなんでしょう……」




「これはオカシイ…… これはオカシイぞ、みんな。
 そもそも遺伝子学上は弟の方が優れているはずなんだ。
 僕の場合、血の繋がりがないためそのケースには該当しないが、
 キミ達はあまりにも不甲斐ないんじゃないのかい?
何か別の力が働いているとしか思えない」


「えと、僕も兄さん達とは義理の兄弟です」




「ああ、そうか。そうだった。
 マイナーなゲームの設定だったんで忘れていたよ」




「…………」




「ん? 待てよ…… となると火月君、キミもお兄さんや妹さんと血の繋がりはないよね?
 どう見ても明らかに繋がっていない。足も短いし」




「ええ、お袋はわかんねぇけど何か親父は違うらしいんスよ!
 炎邪とか水邪とかそんなのが後から出て来て俺にもよくわかんねぇんス!
 あ、でも足は一緒ッス!」



「だよね…… キミはカイ、ブコウ、サトラで言えばブコウだものね」




「ええ、よくわかんねぇけど何かそうみたいなんス! ブコウッス!」




「そうか、そうだったのか……
 このメンバーで本当の兄弟と呼べる者は実に崇秀君しかいない。
 そもそも僕達SNKキャラは義兄弟があまりにも多くないかい?
 ならば本来、遺伝子学上、優れていなければならないはずの
弟キャラ達が性能面で劣る傾向があるというのも不自然ではない」


「あ、私も兄とは血が繋がっているはずです。
 今は真獅子王と名乗っていますが、
 本名はアックス・イーグルと言いまして、私が幼少の頃に失踪……」



「ああ、キミはあまり喋らなくて良い。
 キミは顔ばかりが濃くてキャラは限りなく薄いからね。
 喋っても基本的に面白くないんだ」



「……あ、はい」




「話を戻そう。
 確かに、僕以外の義兄弟達が兄より劣っているのは不自然ではない。
 そう、遺伝子学上は不自然ではないのだが、
 ここまで同じケースが多発するとどうにもやはり何かあるとは思えないかい?
何らかの力が働いている。そういう懐疑心が生まれるだろう?」


「確かに、ちょっと同じ事柄が重なり過ぎですよね」




「ぅうおおおおぉぉぉ―――っ! 何てこったぁぁぁ――――っ!!」




「そうなんだ! やはり僕ら弟キャラは制作側に軽んじられていたんだよ!
 僕以外の弟キャラがいまいちあか抜けないのもそのせいなんだ!
 僕らは被害者なんだよ! これはあまりにも不幸な事実だ!
 ここまで来るともう僕らとしても何らかのアクションを起こさざるを得ない!」


「アクション、ですか? 一体どんな」




ストライキだよ!
 僕ら弟キャラは今後一切SNKPLAYMOREのゲームには出ない!!




!?




!!?




「ぅうおおおおぉぉぉ――――っ!! ストライキだぁぁぁ―――っ!!
 ストライキの意思を表明するぜぇぇぇ――――っ!!」




「人気キャラである貴方が先頭に立ってストライキですか!
 勇気のある決断です。素晴らしい!」




「あ…… あうぅ……」




「ぅう…… う……」




「ん? どうしたんだい?
 この僕がここまで言っているというのに歯切れの悪い人がいるようだね。
 ストライキで何か困ることでもあるのかな?」



「ぅうおおおおぉぉぉ――――っ!!
 こいつぁ一体どういうことだぁぁぁ――――っ!!」




「あ…… あ……」




「まさかとは思うが、すでに何らかのゲームに出場依頼を受けているから、
 だとか、そんな個人レベルの理由で決断を鈍っているわけじゃないだろうね?
 僕は弟キャラ業界全てのために言ってるんだよ?」



「そうだぁぁ―――っ!!
 俺たちゃ今後一切ゲームにゃ出ねぇぇぇ――――っ!!」




「ア、アンディ・ボガードさん! どうかストライキだけはお許しを!
 今度のNEOGEO BATTLE COLISEUMは餓狼伝説が打ち切られた後、
 アナザーストライカーにさえなれなかった私の、
 私のやっと巡って来たチャンスなんです! この機を逃せばあるいはもう永遠に私は!!」


カッ!




「うっ!」




「やれやれ、この後に及んでもまだ個人レベルの小さな考えしか持てないとは。
 出世欲に目の眩んだキャラは実に見苦しい。ねぇ、楓君?」




「あ、あの、僕は…… その、覚醒」




「何? まさか自分は楓(覚醒前)であってNBCに参加するのは覚醒楓であるから、
 楓(覚醒前)としてストライキを了承しても覚醒楓に影響はないなんて
 屁理屈を考えているんじゃないだろうね?」



「そうなのかぁぁ―――っ! おい楓ぇぇぇ――――っ!!」




「え、いや! 決してそんなことは……!」




「てめぇアンディさんだってNBCを棒に振ってストライキの意思を表明してんだぞ!?
 なのに楓、てめぇ―――っ! どこまで腐ってやがんだぁぁぁ――――っ!!」




「そうだ。このために僕は真っ先に受けたオファーを一度断って、
 僕より劣る美形キャラでありながら奇跡的に選出された
 ロバート・ガルシアの門出も心から祝福したんだ。
 まぁ僕クラスのキャラになると今後、出場せざるを得ない事態に
発展する可能性もないとは言い切れないが」


「す、素晴らしい! 素晴らしいスピリッツだ!!」




「そうだろう。実はそのロバート・ガルシアを推薦したのも僕なんだ。
 僕よりは劣るものの彼は美形キャラとしてはなかなかのレベルだからね。
 僕の代わりにどうですか? とPLAYMOREの人に提案したんだ」



「なんてスゲェ人なんだこの人はぁぁぁ――――っ!!」




「何てことだ! 我々は最高のリーダーを持った!!」




「フフフ、止さないか、キミ達」




「で、でも…… 僕は……」




「てめぇコレを見やがれぇ!!
 来たるストライキの日のために、詰め掛けるプレイモアの人をすら絶って
 修行に耽るアンディさんの熱い心が解んねぇのか!!
 それでもまだ個人レベルの小せぇ視点で物を言いやがるってのか!!」


「フフフフ…… ん……?」








「…………」




「てめぇも少しはアンディさんを見習って自己犠牲の精神をだな!」




「何じゃこりゃあぁぁぁあああ!!?」





!?




アンディさん!?




「ど、どうしたんスか!? アンディさん!」




「い、いや、良い。今日はもうここまでにしよう」




「どうしたんスか!? 何かあったんスか!?」




「こ、ここのところ修行に根を詰め過ぎていてね。
 そうだ、斬影拳のキレを餓狼伝説2時代に戻すためにね。
 だから、ちょ、ちょっと立ち眩みがしてしまったんだ」



「大丈夫スか!? しっかりしてください!!」




「あ、ああ、だから今日はもう帰って休むことにするよ。
 後は火月君、それと、えー、イーグル君だったかな、お願い出来るかな?」




「任しといてください! 楓の野郎、絶対とっちめてやりますよ!」




(やるしか、ないのか)




「私も了解しました。光栄に思い、責任を持って事に当たらせて頂きます」




「あ、ああ、悪いね。それじゃあ」





「……出るんだ…… ボクは…… NBCに…… 出……」