主人公会議
「OK! みんな、餓狼伝説の主人公、テリー・ボガードだ!」




「オラオラァ! 龍虎の拳の主人公、リョウ・サカザキだ」




「テヤッ!」




「テヤッ?」




「あ、いや、OK! オラオラと来たからつい条件反射でな…… 草薙京だ」




「KOF'94のOPですね。僕はまだ生まれてませんでしたが、懐かしいです。
 あ、楓です。出演は月華の剣士。苗字はないです。よろしくお願いします」




「んじゃ、今日は主人公会議ということで、全員揃ったか?」




「おいちょっと待てぇ! サムライスピリッツの主人公、覇王丸だ。
 危うく乗り遅れるところだったぜ。一丁、派手に行くか!」




「OH! サムライからも来てるのかい。嬉しいねぇ。楽しい会議になりそうだ。
 じゃ、メンバーも揃ったことだしおっぱじめるとするか!
 えー、この会議はだな、主人公の定義、
 と同時に主人公はこうあるべきという理想というか、あー……
リョウ、後は頼んだぜ!OK!」


「OK! じゃないだろ、テリー。司会役はお前だろう?」




「いやぁ、どうも堅っ苦しいのは苦手なんだ」




「俺だって苦手だ」




「司会なんてどうでも良いじゃねぇか。
 適当にダベって時間潰せばギャラ下りんだろ?」




「えっ? いや、そういうわけにはいかないと思いますが……」




「それより酒は用意してないのかい?
 花見に酒もないんじゃ風流に欠けるってもんだ」




「酒はないが…… 花見なのか?」




「俺もノド渇いちまったな。酒はともかく何か飲み物は要るだろ。
 誰か移動技使える奴いねぇか?ラッキービジョンみてぇなの」




「天草が持ってるみたいなのか。生憎、俺とは相性が悪ぃなぁ」




「斬影拳じゃ無理だろうしなぁ」




「……いや、飲み物は終わった後で良いんじゃないでしょうか?
 まずは主人公の定義、理想、そしてこれからの主人公としての心構え、
 こうあるべきだという未来に向けての約束というか……」



「あ、そういや楓、お前移動技持ってなかったか?
 確かやたらと暴発した覚えがあるんだが。ちょっと行って買って来てくれ」




「え?いや、それは兄の方なので僕には無理というか……
 あ、あの、皆さん、そろそろ会議の方……」




「まぁ兄でも弟でも良いじゃねぇか。俺、コーヒー牛乳頼むわ」




「酒だ! 酒! せっかく21世紀まで来たんだ!
 未来の酒を味わわんことにはな!」




「俺はコーラで良いぜ!」




「ぼ、僕が買って来るんですか!?
 僕はその、兄とは違って移動技は持ってないんですよ!? 本当です!」




「楓」




「え、え、何でしょう、リョウさん」




「俺は豆乳で良いんだが、一番安いのにしてくれ。
 75円以下がベストだ。少なくとも100円を超えるようなものは避けてくれ。
 コンビニになかったらスーパーの売れ残りコーナー等を当たってみると良い。
 意外に掘り出し物があるからな。
あ、賞味期限はあまり気にしなくていい。ああいうのは気持ちの問題だ」


「……は、はい…… それじゃ行って来ます……(やるしか、ないのか)」




「何か眠くなってきちまったな……」




「何だ何だぁ? 良い若いモンがだらしのない。
 お前、日本人だろ? いっちょ俺が大和魂ってヤツを叩き込んでやろうかね」




「大きなお世話だよ。俺はやるときはやる男なの。
 やらないときはやらない。それが俺の大和魂。
 というわけでおやすみ〜」



「OK!」




「オラオラァ!」




テヤッ!
 って、馬鹿野郎!目が覚めちまったじゃねぇか!」




「HAHAHA! 良いことじゃねぇか!」




「ところでお前さんなんで「テヤッ!」なんだ?
 何か決め台詞のひとつでも吐きゃあ良いじゃねぇか」




「知らねぇよ…… テリーとリョウがそれで行けっつったんだよ。
 軽い新人イビリだよな、今考えりゃ」




「お、俺は知らんぞ。テリーの企みだろう」




「お、俺だって知らねぇよ! 京、お前、ジョーか誰かと間違えてんじゃねぇか?」




「間違えっかよ! もうぜってぇアンタらの提案には乗らねぇからな」




「……はぁ はぁ か、買って来ました……」




「お! サンキュ! 良いタイミングだったぜ」




「ったく、調子の良いこった。
 ま、目も覚めちまったしここらで一服といくか。
 サンキュ、真…… いや楓」



「え? 今、真吾って言いませんでしたか?
 真吾…… いや楓って」




「言ってねぇよ。気のせいだろ」




「なら良いんですが……」




「くぅぅ! 美味いねぇ! 21世紀も捨てたもんじゃねぇな」




「ん? ちょっと待て、楓!
 これ120円のラベルが付いてるじゃないか! どういうことだ!」




「え、いや、僕もその、21世紀には詳しくないので……」




「詳しくないのでじゃないだろう! 75円以下だって言わなかったか!?
 ふざけるな! 俺たちゃ100円玉一個単位で勝負してんだ!
 負けたら明日はねぇんだよ!!」



「も、申し訳ないです…… 差額分は僕が払いますので……」




「む、そうか。いや、怒鳴ったりして悪かった。
 なにぶんコトがコトだったんで、ついな。
 いやすまん。お言葉に甘えさせて頂くよ」



「アンタの道場流行ってねぇのか?」




「いやそういうわけじゃないんだが、親父がSVC CHAOSでハリキリすぎちまってな。
 今入院中なんだ。入院費用が馬鹿にかかるし、道場も大変だ。
 ユリは当てにならんし、ロバートも遊び歩いてて掴まりゃしない。
 俺が山篭りに出かけて戻って来たら半数以下になっちまってたうえに、
詐欺だなんだと賠償金をせびられてな。
そのSVCもサッパリ売れなかったおかげですっかり大ピンチってわけだ。
今は極限流の公式サイトに置いた出会い系の広告で飯を食ってる」


「へぇー そいつは大変だなぁ」




「どうやらSVCは回避して正解だったみてぇだな」




「い、いや、リョウさんが山篭りに出なかったら良かっただけでは……?」




「まぁ人生いろいろあらぁな。楽しく行こうぜ!」




「それより極限流の公式サイトってどこだよ?
 そんなもん初めて聞いたぜ。教えろよ」




「お前は荒らすから駄目だ」




「何だよそれ、荒らさねって」




「それより、その…… 会議はどこまで進んでるんでしょうか?
 出来れば経過などを教えて貰いたいのですが……」




「ん? 心配すんな、全然だ」




「え? 全然って、全然進んでないってことですか?」




「おい覇王丸、豪快な飲みっぷりは良いが、溢すのは良くないぞ。床が汚れる」




「ははは、いやすまんすまん。
 これが俺の飲み方なんだ。見逃してくれ」




「ったく、ちゃんとやれよ」




「い、いや、会議の方をちゃんとやりましょうよ!ちゃんとやるなら会議の方を」




「真面目だなぁ、坊主! 天下で二番目のいんてりと見た! 気に入ったぜ。
 おいお前ら、花見はここまでにして、そろそろ会議としゃれこもうぜ」




「そうだな。楓も戻って来たし、始めるか」




「かっタリぃ……」




「ありがとうございます。
 あ、あの、それから、風雲シリーズの主人公の方はまだ来ないのですか?」




「ああ、あいつか。あいつはパスだな、うるさいから」




「ああ、あいつはうるさいな」




「そ、そうですか……」




「まぁ何だ。主人公の定義ってヤツいってみるか?
 俺としては、悲劇性っていうかな、重い過去……
 いや別に過去じゃなくても良いや。
 何か強さに説得力のあるバックボーンが必要だと思うわけよ」


「それは解る気がするな……
 俺なんかおふくろが暗殺されたうえに親父が失踪して、
 ガキの時分で妹を養うためにダウンタウンで
 ストリートファイトに身を投じたからな……」


「そりゃまた暗いな。
 俺も親なしの孤児で、養父も殺されちまった。
 悲劇が俺達の原点ってわけだな」



「俺も未だに卒業できねぇしな」




「僕も、養父なんですが、父が殺されて……
 義兄は失踪、義姉は封印の巫女として亡くなってしまいました……」




「大変だな…… 俺も色とかいう女に付きまとわれて困ってる。
 主人公やってるとこう、必ず悲劇を背負っちまうもんなのかねぇ」




「……アンタ、それはラッキーなんじゃねぇか?」




「色ってSVCに出てたアイツだろ!?
 悲劇じゃねぇよ! むしろラッキーじゃねぇか!
 何とぼけたこと言ってやがんだ、テメェ! ふざけんな!」



「そうだ! その妹もさらわれたうえに
 イロモノになって帰って来た俺の身にもなってみろ!」




「え、ちょっ、何キレてるんだ、お前ら!?
 俺が困ってるっつってんだから、悲劇なんだよ!
 それにお前、草薙の卒業問題は本人の勉学の不足だろうが!
 自分で招いた悲劇をどさくさに余所行きのツラで話してんじゃねぇ!!」


「黙れ、色ボケ野郎が!
 世の中にはどうしても許せねぇことってのがあんだよ!!」




「そうだ。主人公だからと言ってセクシーギャルの追っかけが
 オプションとして付いて良いとは限らない。
 主人公はみんなのヒーローなんだ。俺も感心できないな」



「そういうことだ。ややもすると青少年に悪影響が出てしまう。
 覇王丸には深く反省して貰わないとな」




(す、すごい団結力だ…… こ、これが主人公の貫禄……
 特に草薙さんはいささか怒りすぎの感があるほどの迫力がある……)




「そ、そうなのか?
 いや、それは確かに俺の認識不足の部分もあったかも知れん。すまなかった」




(ついに謝らせてしまった…… ぼ、僕も、僕だって!)




「ったく、またノド乾いちまった。おい、真吾、楓。
 お前の麦茶飲まねぇんなら俺にくれよ」




「え? 今、言いましたね!? 今絶対また真吾って言いましたよね!?
 真吾、楓って言いましたよね!?」




「言ってねぇよ。それより麦茶貰うぞ」




「いや、言いましたよ! 露骨に真吾って言ってから楓って言い直しました!
 僕はこのメンバーのパシリなのか……?い、いや、気弱になってはだめだ」




「まぁとりあえず、そうだな。
 主人公ってのは悲劇を背負いながらも、それを見せず、
 ファイトを笑顔で楽しんで貰えるような男ってのが俺の描く理想かな」



「うむ、俺は背負った深みを知ることで、ファイトから何かを感じ取って欲しいな。
 黙っていても伝わる拳に至ることが俺の目標、理想だ」




「小難しいなぁ、アンタら。まぁ言ってることは解るけどな。
 それでカッコ良けりゃ尚、言うことなしだ。
 プレイヤーさんの分身として、浸れるような主人公でありたいね」



「そうだな。豪快にバッサリいく快感!
 俺の斬鉄閃に酔いしれて欲しいね。それが同時に、俺の侍魂でもあるからな。
 楽しんで、感じ取って、浸れる。全て揃えば鬼に金棒ってか!」



「で、でもみなさん! もう主人公降ろされてますよね!
 テリーさんはロックさんやアルフレッドさん! リョウさんはロバートさんに、
 覇王丸さんは閑丸さんやアスラさん、草薙さんはK'さんやアッシュさんに
 主役の座を奪われてますし、ずっと主役なのは僕だけですよね!
だから僕は真吾じゃなくてれっきとした主役な……!!」


「……さぁ帰るか」




「ああ、結論も出たしな」




「あ、ちょっと! 皆さん! 僕の話を……!」




「俺も帰ってひと眠りといくか」




「うむ、俺もそろそろ18世紀行きの電車に間に合わなくなる。あばよ」




「これが…… こんなのが結末だなんて……」