無口会議
「…………」




「…………」




「…………」




「…………」




「…………」




「……いや、何か喋ろうぜ」




「…………」




「…………」




「……むぅ」




「……まぁその、何だな。
 今回は無口会議というわけで、色々と無口業界の今後、
 無口キャラの在り方について話し合おうというわけだが、良いだろうか……?」



「…………」




「…………」




「…………」




「……良いんだよな?」




「……了解」




「……そうか。
 それじゃあまず、どの程度までの無口が許されるのか、
 という点について各自の持論を拝聴したいのだが、誰かあるか?」



「…………」




「…………」




「…………」




「…………」




「……ない、みたいだな。
 それじゃあ次の議題に進むか」




「……よく喋る」




「俺か? そうだな、俺はお前らと違って徹底的に無口というわけではない。
 長ゼリフも喋るし、ジョークだって言う。
 相棒が賑やかだから無口キャラに見えるのかも知れないが、
 どちらかと言えばクール系だな」


「ただ地味なだけ……」




「おい! やっと口利いたと思ったらずいぶん辛辣なセリフを吐くな、アンタ!」




「…………」




「……だから、そうだな。
 無口すぎると地味になってしまうのは止むを得ん部分はある。
 どの程度までの無口が許されるのか、という点はかなり重要だと俺は思うんだ。
 やはり俺としてはその加減を話し合いたい。どうだ? 何か意見は」


「…………」




「…………」




「…………」




「…………」




「……ない、みたいだな」




「…………」




(……空気重いな、この会議)




「……ぬぅ」




「ん? どうした? ダイモン。何かあるなら聞かせてくれ」




「……いや、なんでもない」




「……そうか」




「…………」




「…………」




「…………」




「……いや、だから何か喋ろうぜ。
 アンタらは気づいてないのかも知れんが、さっきから俺ばかり話してるぞ」




「……己の器を知れ!」




「器? そうだな、各自の器によって許される無口の度合いは変わって来る。
 アンタはそう言いたいわけだな? なかなか良い意見じゃないか。
 そういうのが聞きたかったんだ」



「……己が身の 器を知りて…… ……」




「…………」




「…………」




「…………」




「いや、そんな張り合わなくても良いから。
 即興で俳句作ろうとして途中で詰まるのはやめてくれ。
 ただでさえ空気が重いんだ。余計に話し辛くなるから」



「…………」




「…………」




「……レオナ、何か意見はないか?」




「……そうね。
 無口キャラが男性か女性かによって、度合いは大きく違って来ると思うわ」




「なるほど、そうだな。
 男の無口はクール系に走るしかないが、
 女性の無口は一部マニアを強烈に惹き付けるものがあると聞く」



「…………」




「いや、俺は違うぞ! そんなマニアじゃないからな。
 無言で圧力をかけるのはやめてくれ」




「……クラーク殿」




「ん? 何だ? 意見があるなら言ってくれ。歓迎する」




「……排尿に行きたいのだが、良いかな?」




「……いや、行けば良いだろう。
 そんな、授業中の小学生じゃないんだから、俺に断りを入れられても困る」




「本来なら会議の前に用を済ませておくべきだったのだが、
 なにぶん急な呼び出しで準備を怠ってしまい……」




「いや、そんな説明は良いから! 早く行けば良いだろう!
 別に聞いてないし、聞きたくもないし、そんな話をされても困る」




「……かたじけない」




「やっとまともに話したと思ったら何なんだ、一体……
 どこまで進んだのか忘れてしまった」




「……もう、お終い?」




「いや、終わりたいのはやまやまなんだがそうもいかんだろう」




「月夜に足掻け……」




「ん? 突然に何を言っているのか解らんが、そうだな。
 無口な中にもキラリと光る決め台詞は必要だ。
 それがないと本当にただ存在感がないだけのキャラになってしまうからな。
 無口キャラだからこそ決め台詞が必要という見方は正しいだろう」


「甘い…… ガハァッ!




「いや、だから別に張り合わなくても良いんだが、
 それ以前にアンタの決め台詞はそれで良いのか? 何か疑問はないのか?」




「決め台詞…… えいえいおーおーじゃあーんぷ、ブイブイ! 等ね」




「……まぁそれでも良いんだが、何で例がそれなんだ?」




「ドッカーン!」




「いやそれはセリフじゃないし。音だし。
 というか帰って来てたんだな、アンタ」




「……いや、便所の場所が解らずに戻って来たのであって」




「売店のおばちゃんにでも聞けば良いだろう!
 アンタ無口って言うよりただのダメな大人じゃないか!」




「本来なら会議の前に用を済ませておくべきだったのだが、
 なにぶん急な呼び出しで……」




「いやその話はもう聞いたから!
 そんな事情説明を受けて俺はどうすれば良いんだ!
 なぜ俺にそんな話をする。早くおばちゃんに聞いて用を済ませて来い」



「……かたじけない」




「器が知れたな……」




「むぅ、申し訳ない……
 本来なら会議の前に用を済ませて……」




「その話はもう良いんだ! 手遅れになる前に早く行って来てくれ!
 そして出来ればもう帰って来ないでくれ!」




「……かたじけない」




「……やれやれ、無口キャラというのは本当に些細な違いで
 印象が180度変わってしまうものだ。俺達も気をつけないとな」




「…………」




「…………」




「…………」




「…………」




「別に同意を求めたわけじゃないが、そう黙り込まれると辛い物があるな……」




「なにやってるの? もう逝ったの…… 嘘でしょ」




「軽くショックを受けたのは事実だな。アンタのおかげでダブルショックだ」




「器が知れるぞ……」




「……アンタそれしか言うことないのか?」




「クラーク中尉」




「ん? 何だ、レオナ」




「『己の器を知れ』『器が知れたな』『器が知れるぞ』
 彼の発言を振り返るに、全く同じというわけではないわ」




「……そういうくだらん細かい部分よりも本題の方を考察して貰いたいものだな」




「…………」




「…………」




「…………」




「…………」




「まただんまりなのか、お前ら!
 新ビックリマンのプッチーでももうちょっとは喋るだろ!」




「クラーク中尉、新ビックリマンのプッチーは
 『プッチー』という単語しか話せないのであって口数自体が少ないわけじゃないわ」




「だからそういうことはどうでも良いんだ!
 ニュアンスが伝わればそれで良いんだ!」




「……話す事など無い」




「なら来るなよ! 何しに来たんだ、アンタは!」




「ほろよいの しらねの美酒に べにはがね」




「だから張り合わなくても良いんだ!
 そんな、脈絡なく句を詠まれてもリアクション困るから!」




「……もうお終い?」




「ああ、終わりだ! 終わり!
 業界の希望を夢見てこの場に来た俺が馬鹿だった。
 無口業界にもう未来はないな。ただの地味キャラで一生を終えるが良いさ」



「…………」




「…………」




「…………」




「…………」




「…………」




「だから喋れよ! あとダイモンはドサクサで帰って来るんじゃない!
 トイレは見つかったのか?」




「……ぬぅ」




「どっちだ!?」




「……男性キャラは無口なだけじゃダメ。クールと地味は紙一重だわ」




「……そう、でも女性キャラはそれ自体が個性になる。
 だから私は何も考えない…… 迷わない…… ただ、あの男を追うだけ……」




「いや何、急にまとめてるんだ!?
 だから散々俺がそういう話に持っていこうとしてただろう!」




「……同情はせん。終わりだ」




「そう……」




「……御免」




「ま、待て!」




「……クラーク殿」




「何だ!」




「……売店の場所についてだが、詳しく教えては貰えんだろうか……?」




「…………」




「……サヨナラ」




「…………」