考察 御名方守矢は何故、多数のアクセサリーを身に付けているのか?

御名方守矢―― 楓、雪の義兄であり、慨世の養子の中で長兄に当たる人物。
そして何より月華世界きっての天才剣士である。



だが、いかな天才と言えども齢17の少年に過ぎなかった彼に、
四神の一人、朱雀の力を持つ嘉神慎之介は強大すぎる敵であった。
師父、慨世を殺めた嘉神に彼は一太刀を浴びせることしか出来なかったのだ。
いや、それですら嘉神慎之介のまだ人であった部分の生んだ憐憫ゆえだろう。
もし嘉神慎之介が悪鬼のような男であったならば、彼はその場で斬り捨てられていたはずだ。

師父を討てる存在など、12の楓の中にはこの御名方守矢という
義兄以外に存在し得なかったのだろう。
血塗られた太刀を握り、師の亡骸の前に立ち竦む守矢が楓には師父の仇に見えた。
守矢は奇しくも嘉神慎之介がそうしたように、無防備に楓の太刀を左肩に受け、
何も言わずに楓達の前から姿を消した。
己の無力を憎み、過去を清算するために、剣を磨く放浪の旅へと出たのだ。

にも関わらず、彼のいでたちには西洋のアクセサリーが実に目立つ。



これだけ悲壮な覚悟で姿を消した彼がアクセサリーまみれのオシャレ三昧というのは
いささか違和感がないだろうか?
骸さながらにボロをまとい、十三さながらに不精ヒゲを生やして
よれよれの姿で現れる方がまだ説得力があるというものだ。
そもそも不器用で人間関係を嫌う彼が幕末の時勢に
このような目立つ西洋アクセサリーを趣味にしているというのも
よほどのナルシシズムの持ち主でもなければ説明に苦しくはないだろうか?



先頃、奇跡的に発見された彼の少年時分の写真では、
愛刀、月の桂こそ身傍に置いているがアクセサリー収集癖は確認されていない。
この資料により御名方守矢は師父、慨世を討たれた後、
修業の旅の最中に次々とアクセサリーを収集したことになる。
妹弟に何も語らず、父殺しの悪名を被って消えた長兄はアクセサリー収集に没頭してした。
そう考えると違和感と共に彼に失望感さえ漂って来る。
軟弱極まりないと嘆く諸兄らの言葉も最もである。
ならばこそ御名方守矢のアクセサリーには、何かその矛盾を埋める謎が隠されているはずなのだ。

そこで私はこの月華の剣士という文献の登場人物を隈なく洗うことにした。
すると驚くべきことに、彼らは実に現代の人間の常識からはおよそ考えられぬ、
恐るべき能力を秘めていたのだ。
雷、炎らを手足のように扱う剣士、武道家に、亀や妖怪をどこからともなく召喚する老人、少女、
身体を文字通り鋼鉄にする男、そしてすでに現世の人間でさえない存在の数々……

そこへ来て、御名方守矢は天才剣士ではあれどそれだけでしかない、ただの人間である。
余裕あり気な雰囲気が醸し出す圧倒的な格に我々は見当違いを起こしていたのかも知れない。
彼は剣を振っても弟のように雷は出ないし、妹のように何の説明もなく氷が出たりもしない。
まして嘉神慎之介のように画面全体を覆い尽くさんばかりの炎など発せるはずがないのだ。
長兄、御名方守矢は“ただの天才剣士”でしかなかった。
というか、他の連中がもはや剣士ではない人間でさえない

そんな彼がもし決闘の最中、刀を落としてしまったらどうだろうか?
向かい合う敵のように火を吹いたりなど出来ない彼に素手で何が出来るだろうか?
自然、彼は刀に代わる第二、第三の武器を身に付けるしかなかったのだ。




結論 ナックルパートを出すため

彼はメリケンサックという西洋武器を幕末に取り入れていたのである。
もはや説明するまでもなく頭部の金属は頭突きに使う物であるし、
指輪からは当然、毒針が発射されると考えて良いだろう。
ピアスにはその毒が仕込んであり、いざという時には投げつけて武器にも出来る。
ただの人間が超人達と闘うのだから、その程度の装飾は必須だったのである。

だが、惜しむらくと言ってしまうのは妙な話だが、御名方守矢はあまりにも天才すぎた。
相手が超人であり、刀を落とすというアクシデントに見舞われても彼は
それらの装備を使うことなく、その危機を脱してしまったのである。
第二幕に至ってはもはや武器を落とす失態すら演じることはなかった。
もしかしたら彼もまた“天才剣士”という超人だったのかも知れない。