美形会議
「やぁ! 餓狼伝説の美形キャラ、アンディだよ」




「わざわざ説明せんでもええやろうけど、
 わいが龍虎の拳の美形キャラ、ロバート様や」




「…………」




「右京さんや」




「サムライスピリッツの美形キャラ、橘右京さんだね」




「で、うら若き乙女達を熱狂させる
 そうそうたる美形キャラ三人がすでに揃ってしもたんやけど、
 他は誰が来るんや?」



「後はKOF、風雲、月華から選りすぐりの美形キャラ達が集う予定さ。
 一応、KOFからはすでに紅丸君を呼んである。
 月華の剣士からは…… 守矢さんに電話を入れてみようか?」



「ガハァ!」




「血を吐いた!」




「右京さんが血ぃ吐きよったで!
 せ、せや! あかんかったんや! 無口刀持ち居合袴長髪美形キャラを
 右京さん以外に呼んだらあかんかったんや!
 これ以上、キャラ被られて存在感薄ぅなるんはあかんかったんや!!」


「そ、そうだったのか! そうとも知らず、これはとんだ失礼を……」




「……いや……いい……」




「ホンマ、右京さんは身体悪いねんから、気ぃつけなあかんで。
 で、風雲からは誰を呼ぶんや?」




「……誰を呼ぼうか?」




「…………」




「…………」




「……いらないね」




「……ああ、いらへんな」




「…………」




「まぁ何や、アンディ。KOF2003はリストラされてもうて残念やったな。
 今年の美形はわいに任せて、気ぃ落とさんと来年に備えたってくれ」




「いやぁ、心配には及ばないよ。
 今回休んだことで、女性ファンからたくさんの手紙を貰ってね。
 傍目にはリストラに見えたかも知れないけど、
 実はちょっとした悲劇性で母性本能をくすぐってみただけなんだ。
KOFの僕もマンネリになってただろ? だから少しばかり大人の駆け引きってヤツをやってみたのさ」


「ああ、なるほど!
 お前さんほどの美形キャラが外されるんやから何かあるとは思うとったが、
 そういうことかいな。カワイコちゃん達から手紙か、ええな。
 まぁそれくらいのボーナスがないと、美形キャラなんぞやっとれんわな」


「ああ、この美形業界は一見華やかだけど、
 その裏ではどす黒い陰謀の数々が渦巻いているからね。
 美形も楽じゃないよ」



「華橘 落ちて我が身の 冬を知る」




「せやせや、いくらわいらみたいに絶大な地位を築いとっても、
 いつまた新しい美形キャラが生まれるとも限らんからな。
 デッドラインの美形キャラ達は醜い蹴落とし合いをやっとるらしいで」



「まったく、嘆かわしいね」




「すまん、PS2版SVC CHAOSの収録で遅れてしまった。八神だ。
 まだ美形会議はやっているか?」




「……!?」




「……!?」




「何だ……?」




「ちょ、どういうことや、アンディ! KOFからは紅丸やなかったんかいな!」




「そ、そうだよ! 僕が呼んだのは紅丸君だ! お前は何をしに来た!」




「何って…… 美形会議ではないのか?
 KOF代表として来てやったんだ。貴様にお前呼ばわりされる覚えはない」




「何がKOF代表や! お前が来てもうたら台無しやないか!
 右京さんもごっつ怒っとるで!!」




「……空気読め!」




「見ろ! 右京さんも怒ってるじゃないか!」




「な、何だ? 俺が悪いのか?
 これは各シリーズの美形キャラが会議を行う集まりではないのか?」




「そ、そうだ! そうだけど、お前はダメなんだ!」




「お前みたいな美形キャラが来たらオシマイや!」




「解らんことを言う…… 貴様等だとて美形キャラだろう?
 そこの橘右京は設定上はやたらと女にモテて、
 勝ちポーズで何人もの追っかけに追われているではないか」



「ガハァ!」




「血を吐いた!」




「右京さんが血ぃ吐きよったで!
 せ、せや! あかんかったんや! 設定上とか言うたらあかんかったんや!
 実際には地味で女性ファンおれへんことを突付かれたらあかんかったんや!!」



「ウゴハァ!」




「謝れ、八神庵!」




「右京さんに謝れ!」




「な、何だ、貴様等!?」




「ウゴガハァ!」




「な、何だ、こっち向いて吐くな!
 いや、すまん、俺が悪かった。許してくれ」




「解れば良い……」




「解ればええんや」




「一体、どういう会議なんだ、これは……」








「やっぱり、僕が考える美形のポジションとしては、
 主人公のライバル的存在、ここは外せないポイントだと思うんだ」




「せやな、そのポジションを得てこそ美形、っちゅう節はあるわな」




「ライバルか…… 俺と奴は…… 違うな。
 ただ憎み、殺し合うだけの、互いの生存を懸けた敵だ」




「僕が兄さんのライバルだと言うのは賛否両論あるだろうけど、
 僕はライバルのつもりだ。それ以上に、目標でもあるけどね。
 そしてそれが、僕の美形キャラとしての誇りでもある」



「…………」




「あ……」




「あ……」




「そう言えばサムライスピリッツのライバルキャラは牙神幻十郎だな。
 先日、SVCで共演したが、あまり美形とは言えな……」




「ガハァ!」




「謝れ、八神庵!」




「右京さんに謝れ!」




「な、何だ? 俺は何か間違ったことを言ったか?
 例外を認め、間違いを正すならば
 まずはアンディ・ボガードの主張から検証するべきではないのか?」



「黙れ、若造!」




「わ、若造!?」




「せや! 若造は知らんのや! NEOGEO業界にはこないな言い伝えがある!
 それは、HOW TO PLAYで殴るキャラが主人公!

 
一方的に殴られるキャラがライバルっちゅーこっちゃ!
 初代サムスピで殴られとるキャラが誰か言うてみ!!」


「そうだ! 右京さんだろうが!」




「げんげつに ぬれる我が骸も 美かんなり」




「それは一つの説としては面白いが、では餓狼3はどうなる?」




「餓狼3だと?
 そりゃあ僕か、不本意ながらギースに決まっているだろう」




「せや! なに知識人ぶってんのや!」




「何だ、記憶にないのか……
 仕方ない…… 貴様等が忘れているなら俺が当時の映像を持って来よう」




「何をしても無駄だ。餓狼1ではジョーも含めて三人でやったが、
 餓狼2では僕が、餓狼SPではギースが出演している。
 この深き伝統、お前如きがとやかく言って良い問題ではない!
 冒涜は許さんぞ!」


「せや! もっと言ったれ、アンディ!!」










「…………」




「…………」




「…………」




「……何のコラだい?」




「いやコラじゃないだろう。現実を見つめろ。
 そもそも一方的に殴られる役が美形キャラの仕事なのか? オカシイだろう。
 俺も何度かHOW TO PLAYには出演しているが、
 京の奴には一度も殴らせたことはないぞ。
 まぁ'96の時は完全に何もすることがなくてただ立ってるだけだったから、
 さすがに一発くらいは殴られても良いかとは思ったが……」


「……ま、まぁ何事にも例外は付き物っちゅうこっちゃな。
 よくよく考えれば龍虎1でのHOW TO PLAYも藤堂のおっさんやったし、
 必ずしもあそこに出とるんが美形キャラっちゅーことはない。
 つまりライバルでもない」


「それだけ、美形業界は奥が深いということだね」




「せや、何を以って美形キャラと定義するんかは永遠のテーマなんや。
 そない簡単に結論が出てまう方が間違うとるんや」




「いや、言いたいことは解らんでもないが、
 それで良いならこの会議に意味はあったのか?
 結局、何だったんだ、この会議は」



「だが、僕にもひとつだけ譲れない主張がある」




「何だ、まだ何かあるのか」




「……聞かせて……くれ……」




「お前さんにそこまで言わせる主張、わいも聞きたいわ」




「ああ、つまり僕が言いたいのは――
 正しい美形キャラは総じて長髪であるということなんだ!!」




「お……おおお……!」




「せや! この会議で語りたかったんはまさにそれやったんや!」




「いや別にそうとは限らんだろう」




「何だ、八神! まだ屁理屈を振り翳すのか!」




「いやその主張が全て間違っているとは言わんが、
 俺くらいのボリュームでも美形キャラはごまんと居るだろう。
 それにむしろ長髪のオーソドックスな美形キャラの方がすでに飽和状態で、
 もはや美形キャラとしての本分を果たせていないのではないか?」


「な、なんちゅうことを!」




「おま、お前は何を言っている!」




「だから、普通の長髪オールバックだとか、長髪真ん中分けは
 もはやありきたりすぎて飽きられているのではないか?
 というのが俺の話の概要なのだが。それを話し合う会議ではないのか?
 俺はてっきり……」


「ガハァ!」




「あ、謝れ、八神庵!」




「右京さんに謝れ!」




「な、何だ、俺が悪いのか? 本当に何なんだ、この会議は」




「四季の冬 我に来たるは 死期の冬……」




「いや会議で死ぬなよ! 話をしただけだろ!」




「…………」




「…………」




「俺が悪いのか!?」